mento)をも行なったのである。「書き直し」というのは,各章冒頭やしばしば内部tave 53-55)。《海に奇麗な女がいる/上手に描かれ生きてるよう/彼女の熱い歌で人をの)無根拠さ,虚しさを諧諒的に論じてみせるという実に逆説に満ちた人物であった。そして注目すべきことに彼は上記『恋するオルランド』の「書き直し」(Rifaci-に己の詩(物語と関係しない場合も多く,時に自伝的記述まで行なう)を付け加え,またボイアルドの語句をも書き改める作業である。ベルニほど極端ではなかったが,俗語対ラテン語の一種の言語論争のなかで『オルランド』の書き直しはしばしば試みられたものであり,アリオストの『狂乱するオルランド』やトルクワト・タッソ『解放されたイエルサレム』はボイアルドの続編,さらに続々編といった位置にある。ベルニおよびその文学世界については場を改めて詳しく論じたいが,「書き直し」の執筆時期はおよそ彼がローマを離れてジベルティに付き添ってヴェローナに行く1527年後半から,先にも見たようにポローニャ旅行を終えて再びヴェローナに戻った後,1531年夏頃までに行なわれたと推定されている。なにより驚くべきことに「書き直し」構想とパルミジャニーノの素描制作は時期的にも符合しているのである。印刷本自体は現在まで謎の理由で実に1542年を待つこととなったが,筆者は16世紀に出たそれらベルニ版本三つを全て参照した。我々の関心個所におけるベルニの「書き直し」を凝視しよう(第1書第6歌,ot-誘い/行く者は人の姿を奪われ/烏になる者,フクロウになる者/白鳥の羽根を纏う者/狼,ライオン,猪に/熊に,あるいは別の動物になる者たち。そこに一隻の船がやってくる/その上に実に高貴に満ちた男/奇麗な顔と素敵な声でもって/この娘の愛に火を点ける/彼女は彼に鍵を与えるようだが/その下にかの飲みものが見える/この女はそれで多くの騎士を/獣に,野獣に変えてきたのだ。次の絵では彼女は眼が眩んだよう/彼に寄せる大きな愛に/己の術で欺かれ/差し出された水を飲み/白い鹿に変身した/そしてどこかの誰かに狩られてしまった/チルチェッラと画家は上に記し/恋の相手にはユリシーズと》(注8)。叙情的で説明の少ないボイアルドを,より物語的に分かり易くしている。なにより,“bella"(奇麗な)と但し書きされた魔女は,今度は括弧もなく堂々とチルチェッラと命名され,また騎士も臆すところなくユリシーズとはっきり呼ばれている。ベルニがこのようにボイアルドの暗示的な文章を改変し,より直接に古典的典拠ヘの参照を強調したことが特殊だという事実は,16世紀のその他の「書き直し」と比較-443-
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