沈姪作品においては,明暗を強調した岩塊と渓流をもちいた奥行き表現た~ともなでは,この画則をもとに,熊斐作品の画面構成をみてみる。っ,烏獣が位置する場の設定を巧みにあらわしている。前記の『沈南頻画図百幅』には,「小景」の項目も設けられており,和解には「少し景色を書き交たる図」と記されている。中心となるモティーフには馬や,鳳凰,孔雀などの大型の鳥獣の名が記されて,その大きさにともなう景が設定されていたことがわかる。では,熊斐にはこうした特徴がみられるのだろうか。熊斐の《清泉白鶴図》〔図13〕は,前景の鶴と岩塊そして岩塊の間を流れる清流の関係をえがきだすことに成功しているが,背景の瀑布は,平板で,前景との関係を描ききれずにいる。《猛虎震威図》についても,虎の背後には沈鈴風のコントラストを用いた岩塊を描いているが,背景については,墨を掃くにとどめている。熊斐の現存作品には,『沈南藤画図百幅』中の「小景」の項目に見られる様な馬や孔雀などの大型動物はほとんどみられず,水辺に憩う烏が大半を占めている。これらのイ乍品をみていくと,多くが《一路功名図》《柳下鵜図》など画面の左もしくは右から伸び出した枯木とその上に止まる鳥を描く構図を取っていることがわかる〔図5(左)〕。この構図は,幹の団に必ず水面を描き,幹との上下関係を表し,水面で奥行きを表し地面にたたずむ鳥を描くのに比べ,上下左右前後の関係を見いだしやすい視覚効果を得ることが出来る。これは,『蘭斎画譜』にある「遠近高低左右前後髪に應し機に随ひ運筆進退自由」を明確に体現した構成であるといえるのではないだろうか。熊斐は,奥行き表現を部分的に用い,最小限にその効果を見いだし,そして,熊斐が最小限にえがいた沈鈴の「画則」に則った構成法は,日本において沈鈴の画法をより流布しやすくしたと結果的にはいえるのではないだろうか。沈鐙の画法が,宋紫石・鶴亭をはじめ幅広い展開をみせたことは,熊斐という濾過装置を通したことによる可能性が高いと考えられる。中林竹洞の『文画誘腋』にも,南頻派の画法について「其学やすきを喜ぶなり」とあるが,沈鈴の奥行き表現をともなう画面構成の花鳥画が容易に学ばれたとは考えにくく,やはり熊斐による消化の結果である可能性が高い。むすび熊斐の現存作品は,『沈南蹟画図百幅』に記される画題,特に「兼工帯写画」の項との関係が強く,同時に,唐絵目利の画法も意識したものと考えられる。-456-
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