鹿島美術研究 年報第15号別冊(1998)
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部を仕切る対角線にも鉄桟が入れられている。水平の鉄桟は菱形の内部を避けて通されており,菱形と菱形の仕切のように作用する。このため,ュニットごとに一つのかたまり,という印象を与える。実際,それぞれのユニットには,下から順に,「ヨセフの受難」,「エジプトのヨセフ」,「エジプトの執政官としてのヨセフ」,「ヤコブとの再会」,というタイトルを与えることも可能だろう。鉄桟の黒い線が視覚的に与える効果により,菱形列が支配的となり,半円形メダイヨンは中央に対する周縁部となる。この中心部対周縁部の構造が効果的に作用している例を挙げておく。パネル14は「眠るファラオ」を表し,15ではその夢の内容である「肥えた牛と痩せた牛」を示す。ここでは,「眠るファラオ」という物語レベルでの現実的事象を中心に,その周辺にファラオの夢という非現実世界を表すことで,二つの異なるレベルの事象を対比的に描き出している。しかし,全体としてはこのような二元的構成ではなく,各コンパートメントがほぼ対等の比重を持って,物語は継起的に叙述されていく。時間的連続と,移動の概念を巧みに示しているのか,パネル25,26, 27の部分。この部分は従来,パネル27の「息子たちを迎え入れるヤコブ」に続き,エジプトのヨセフの元へ向かう旅程を描くと考えられてきたが,下段のパネル24からつながり,エジプトから帰還するヨセフの兄たちを表すものと考えたい。なぜなら,ヨセフの兄たちは大きな袋を携えている(パネい。同じ旅程でも,パネル21「エジプトに穀類を探しに行く兄たち」や,28「エジプトに向かうヤコブ」にはこの膨らんだ袋の表現は見られない。「エジプトからの帰還」という出来事を描くために,ここでは左から右へという物語進行の原則が敢えて破られ,パネル27のヤコブは,右からやってくる息子たちを待ち受けている。したがって,往・来という二つの移動運動が区別され対比されているのである。25のヤコブは息子たちの方ではなく斜め上方を見上げ,すでに次に読み進めるべきパネルの方向を示唆している。周歩廊南側のベイ24。中央の菱形パネルの各辺に接して花弁がつけられ,この5つのコンパートメントからなるユニットが三つ重ねられる〔図2〕。各ユニットの間には小さな円形メダイヨンが句読点のように挟み込まれ,全体は19コンパートメントかル25,26)。これはヨセフから分け与えられた穀類の入った袋を示すものに他ならな2 ブールジュ大聖堂-491-

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