ら構成されている。鉄桟はコンパートメントの形に添って歪曲されているが,小円形メダイヨンの周囲には施されていない。代わりにこの円形区画の外周には白い真珠装飾がめぐらされているため,黒い桟で囲まれた面積の大きい他のコンパートメントに比して,それほど視覚的インパクトが弱いという印象は受けない。最下段3区画は樽職人。シャルトル同様,「ヨセフの夢」から物語は始まるが,「ベンヤミンの手を取るヨセフ」で物語は終わっている。場面の配置はやや変則的で数カ所で順番が入れ替わっている。第ニュニットの中心部は「穀類をまく指示をするヨセフ」(パネル13)だが,その周囲には「井戸に投げ込まれるヨセフ」(7),「ヤコブに血のついた衣を見せる兄弟たち」(9),「ポティパルとその妻の前のヨセフ」(10),「ポティパルの妻による誘惑と告発」(11)であり,中心部では時間層にずれが生じている。さらに「牢獄の中で夢解きをするヨセフ」はパネル7,9の間のパネル12へ。「ファラオの夢」(15),「ファラオの夢解きをするヨセフ」(16)は「穀類の種まき」より上部に見られる。中央列の菱形パネルに,ヨセフの生涯の中から代表的な出来事を選んで配置しようとしているため,全体のつながりには整合性を欠き変則的場面配置をとらざるを得ない。しかし,読みとり方向のこの混乱は,ヨセフの波瀾万丈,起伏ある生涯の展開を示唆しているようでもある。こうした読みとりの混乱と,物語の筋の混乱が一致する例としては,シャルトルの「聖エウスタキウス伝」(ベイ43)を挙げておく。ョセフ伝にさかれているコンパートメントの数が16と,シャルトルの6割に満たないため,シャルトルに比べると割愛されている場面も多く,またシャルトルでは複数のコンパートメントにわたって描出される部分が,一区画に圧縮されることもある。パネル11では「ポティパルの妻による誘惑」と「妻による告発」は同一の区画上に描かれており,ステンド・グラスでは珍しい「異時同図法」が用いられている。ポティパルの妻は扉から腕と顔を出し,抗議の身振りを示し逃げようとするヨセフのマントに手をかけている。そして,そのマントを手にした妻がポティパルと会話を交わす。この二つの場面はプロポーションが異なり,ポティパルヘの告発の部分の方がやや大振りとなっているため,「誘惑」の部分は告発している内容を示すものとも考えてよいだろう。「ヨセフ物語」と「放蕩息子の璧え」・・図像プログラムの存在をめぐって-492-
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