鹿島美術研究 年報第15号別冊(1998)
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おわりに以上,シャルトルとブールジュの「ヨセフ物語」をとりあげて,幾つかの点から考察してみた。本稿では,寄進者の問題,神学的解釈など触れられなかったテーマも多いが,今後への研究の指針をのべて,報告を終わりたい。本稿のはじめに述べたように,ステンド・グラスは教会装飾に用いられることで,それ自身が意味を持つという特殊なメディアであり,視覚的メッセージの伝達機関として多層的に分析されるべきである。したがって,幾何学構図と物語叙述,図像プログラム,といったミクロとマクロの視点からの考察を継続していきたい。一つ一つの窓の主題がどのような糸で結び合わされているのか,その複雑で重層的な連関を明らかにするためには,多様な方向からの考察を必要とするであろう。シャルトルとブールジュというゴシック初期のステンド・グラスを代表する大聖堂を対象に,「旧・新約聖書」の窓に主題を限定して調査・分析を継続していくことで,ゴシック初期のキリスト教美術に特権的位置を持つステンド・グラスというメディアの本質に,一つ一つ迫っていきたい。(誌面の関係で注,参考文献は省略した)-495-

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