鹿島美術研究 年報第15号別冊(1998)
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一方,問題の羅漢像は,画面左右端に白下地の塗り残した部分が露出しており,また上方の羅漢像の上隅には別の冠木長押当たりの痕跡が認められ,さらに羅漢像の図様の端が現在の腰長押の下に入り込んでいることから,改造以前に描かれたことがうかがわれる(注8)。このことから,羅漢像は,治承二年にさほどさかのぼらない建立時に描かれたものとみなされている。まず,今回の調査で確認された浄瑠璃寺三重塔初重壁画十六羅漢像(以下,壁画羅漢像と略す)の図様を概述しておく。ここでは(第一尊者から始めるために)南面東側より左回りに上段の八面,同じく南面東側より下段の八面の順に記述する。なお,下線部分については次項に述べる。[上段]① 南面東側右端に懸崖と樹木があり,樹木は左方向へと枝を延ばす。その下② 東面南側画面左側の岩に羅漢が腰かけ,左斜めを向いており,背後より雲③ 同北側左端の岩に羅漢が腰かけ,やや前傾の姿勢で下方を見下ろす。羅④ 北面東側画面左側,真横を向いた羅漢が胸前に手を挙げており,その背後⑤ 同西側左端から右方向へと枝を延ばす樹木が大輪の花を咲かせており,2 図様と表現で羅漢は右足を下げて半珈し,右脇には俗形が侍立するのが認められる。がたちのぼる。画面右側では年若い僧がやや前傾の姿勢で立ち,蓮台上に置いた香炉へと右手をさし出し,左手は右袖の袂をとる。羅漢の右脇は,俗形が両手で如意を持つ。漢の左上方には,鰭袖の付いた衣を着た人物がおり,この人物の両袖の表現からすると,左手の上方に右手が位置することになる。から雲がたちのぼる。羅漢の視線の先には小ぶりな瓶があり,瓶の下方には花形の器がみえる。羅漢の背後には真横を向いた俗形が立ち,また右下方には獣足と思われる足の一部が認められる。その下で,羅漢が左手で鹿杖をつき,やや前傾の姿勢をとって右手をさし出す。手の先には二匹の虎がおり,そのうち左側の一匹-526-

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