ある。黒漆地に金銀高蒔絵の技法で花籠•生花・花包・折枝の図を,余白を十分に取1650年代ー18世紀初:絵画的様式17世紀中葉以降に主流となる絵画的様式の輸出漆器は,鎖国の後,唯一の直接的な漆塗りの地に金高蒔絵を基調とする技法で描かれる。その描き方が,南蛮~う1657年にオランダ台湾長官に任命されたフレーデリック・コイエットの盾(注17)ががて主流となる絵画的様式の輸出漆器の特徴を先取りしている。こうした特別注文や,1640年代には内部の塗りにまで言及するようになるVOEの指示は,様式の展開に大きな影響を及ぼし,この時期さまざまな中間的作例が製作されている。そうしたなかで,1645年頃に製作の下限が求められるコペンハーゲン国立博物館所蔵のチェスト〔図5〕(注14)は,すでに絵画的様式の特徴を備えた作品でって描き,各面を金平蒔絵による幾何学的文様帯で縁取っている。装飾において17世紀後半に引き継がれる南蛮的な要素は,この螺釧を失った幾何学的文様帯による縁取りのみである。購入者となったオランダ人の美意識を強く反映している。すでに「ファン・ディーメンの箱」に示されている黒漆と金蒔絵の鮮やかなコントラストや日本的な意匠への志向は,この様式の基本的な特徴であり,山水図,花鳥図,草花図,吉祥図などが,黒に図様を空間いっぱいに充填したものではなく,バランスの取れた絵画性の高いものであることから絵画的様式と呼ばれている。一方,VOEによる公式の漆器購入は,価格高騰に対する不満が聞こえ始める17世紀の末まで順調に行われ,かつてないはど多数の日本製漆器がヨーロッパ市場に供給された。その中心的な商品となったのが,観音開きの二枚扉をもつキャビネットである。クリスチャン五世(1670-1699)の紋章付きの台に設置されたローゼンボーク城のキャビネット〔図6〕(注15)はその典型で,黒漆地に金銀高蒔絵に平蒔絵,蒔輩の技法で山水の景観が描かれている。南蛮様式の面影は全くなく,絵画的様式への展開の最も最終的な作風を示す。この種の作品が18世紀のフランス家具に最も多く再利用されている。なお,特別注文品としては皿や盾などに紋章を施した作品がある。VOEの取締役だったヨアン・ハイデコペル(1625-1704)の皿(注16)や,VOEの商館長をつとめ,初期の例で,こうした流行は18世紀の初頭まで続いた。-546-
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