鹿島美術研究 年報第15号別冊(1998)
557/711

2. 日本の輸出漆器の再利用について74. 3cm。前後に分割された天板の後ろ五分の三がせり上がって,天板の下から引出先に述べたように,18世紀に入ると,価格高騰や品質低下を主たる原因とするトラブルによってVOEの漆器購入は停滞する。その兆候は17世紀末にあらわれ,贅を尽くした注文品や大型のキャビネットはしだいに減少した。特別な注文品であるはずの紋章を付した作品にしても,もはや17世紀の様式的な過渡期に製作された作品のように技巧を凝らしたものではなく,定型化が進行した花鳥や草花の散らし文様を中心とする比較的簡素なものであった。17世紀の日本の輸出漆器はこうした状況のなかで,解体され,再利用されることになる。南蛮様式の輸出漆器の再利用メトロポリタン美術館所蔵の“tablea la Bourgogne"と呼ばれる型式のテーブル〔図7〕は,ルネ・デュボワが1760年頃に製作した作品である。縦39.4,横61.0,高か現れる仕掛けのテーブルで,金銀平蒔絵に螺細を併用した南蛮様式の輸出漆器が再利用されている。空間に松や椿などの花樹を充填して尾長鶏を描いた天板には,キャビネットの前蓋から取った漆パネルを用い,葛の蔓草文を充填しているテーブル側面と引出側面には,チェストやキャビネットの背面〔図8〕から取った漆パネルを用いていると思われる。引出の前面は,キャビネットの引出の前面を転用したものと考えられ,中央の三段の引出には寸法が合わずに苦労した痕跡も残っている。鋸歯文による文様帯で縁取り,内側の空間に楓を描いているが,左右の幅が不足していたらしく,向かって左端に萩を描いた約1.5センチ幅の板を継ぎ足しているのである〔図9〕。管見の限りでは,18世紀のフランス家具において,南蛮様式の輸出漆器が再利用された例は,絵画的様式のそれにくらべると少ない。これは17世紀に輸出された量の違いを考えれば当然のことだが,それでも巧みにリフォームされた例を含めれば,姿を変えて大切に使用されてきた作品に出会うこともある。南蛮文化館に所蔵されているキャビネット〔図10〕はその好例である。螺釧に蒔絵をイ井用した七宝繋ぎの文様幣で各面を縁取り,銀蒔の地とした内側の空間に,金平蒔絵と螺細で丸紋を配したもので,その意匠・技法は,イザベラ・スチュワート・ガードナー美術館所蔵のチェスト〔図3〕に近似している。この作品では,各面の外枠をニスを薄く塗った木材(おそらく紫檀)で造り,その内側に南蛮様式の漆パネルをはめ込んでいる。両扉には,周縁部や召合の部分に材を補填し,調整をはかった痕跡が-547-

元のページ  ../index.html#557

このブックを見る