の輪郭を残して彫り込み,その凹部に白•青·緑·赤·茶などの色漆や油絵の顔料を絵画的様式の輸出漆器の再利用:2 ビクトリア&アルバート美術館所蔵のコモード〔図15〕はベルナルド・フォン・リーセンブルクが1740年頃に製作した作品である。引出の正面に,黒漆地に金高蒔絵で描かれた山水図は,黒と金の鮮やかに対比させた絵画的様式の典型を示し,その蒔絵意匠の作域はローゼンボーク城のキャビネット〔図6〕に近い。おそらく,こうしたキャビネットや平蓋式のチェストを解体して漆パネルを造り,緩やかに湾曲させ,上下二つに分割された引出の正面と両側面に使用しているものと思われる。湾曲させたためか,表面には若干の後補が施されているが,大きな損傷は見られない。東洋からもたらされた漆器を解体して漆パネルを造り,緩やかに湾曲させ,家具にはめ込んで使用する習慣は,ルイ15世(在位1715-1774)の時代に普及した(注19)。日本製漆器の他に,多く用いられたのはコロマンデル(coromandel)と呼ばれる中国製漆器で,同じくベルナルド・フォン・リーセンブルクが18世紀中頃に製作したコモード〔図16〕がメトロポリタン美術館に所蔵されている(注20)。コロマンデルとは中国では「款彩」といい,漆下地に黒か茶の上塗りを数層塗り重ねて,その面を文様充填する技法である(注21)。屏風として輸出されることが通例で,これを解体して家具用の漆パネルが造られた。日本製漆器の場合,屏風型式で輸出されることは極めて稀で,主に大型のキャビネットや平蓋式のチェストが解体され使用されたと考えられる。ここでは,コペンハーゲン国立博物館所蔵のチェスト〔図17〕を見てみよう。漆パネルとして使用可能な意匠が,正面や両扉はもとより,天板・両側面・背面に施されている。勿論,コモードの型式によっては,湾曲させられることなく,平板のまま漆パネルを用いる場合もある。マルタン・カルランが1785年に製作したとされるルーヴル美術館所蔵のコモード〔図18〕はその一例で,おそらくキャビネットの天板や扉と側面の板を,コモードの正面にはめ込んでいると思われる。むすびにかえてロシアのエルミタージュ美術館には,典型的な南蛮様式のチェストとキャビネットか所蔵されている。国営銀行の部長で皇帝とも近しい関係にあったスティーグリッツ男爵の寄贈品で,1880年に彼の代理人がパリで購入したものである。当時,男爵と代-549-
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