注は,まず第一に作品と場との密接な関わりである。先述した通り,これらのミニマリズム的な作品は当時,かなり限定された画廊,あるいは展覧会で発表された。こうした作品は写真によって今日知られ,移動や保存が困難な場合が多い。実体的な作品が存在する初期ミニマル・アートでさえ,空間が作品の関数とされるため,場所と無関係に作品を構想することは不可能であり,さらに独特の素材を用いたアルテ・ポーヴェラやもの派においては,作品自体の同一性が保証されないこととなった。そして些か逆説的に感じられるかもしれないが,このような空間的限定が示唆するのは,同時に作品の時間的な限界である。画廊や美術館という特定の空間において成立する作品とは,言い換えれば一定の期間しか存在し得ない作品である。アルテ・ポーヴェラやもの派,そしてプロセス・アートと呼ばれる動向のなかで,作品の時間的変化を主題とした作品が登場したことは,この意味で必然的な成りゆきであったといえよう。一般にモダニズム美術において,作品は自律的な価値を有するから,どんな場所に設置されようとも,その価値は不変であった。それゆえに近代においては,作品を一定期間,特定の場所に設置する展覧会なるもの,あるいは「美術館」などといった制度が意味を持ち得るのである。これに対して,特定の場と時間においてしか成立し得ない作品は,展覧会や美術館といった制度に同収されない。60年代後半から70年代にかけて展開されたミニマリズム的傾向の美術が提起したのは,まさにこのようなモダニズム美術の原理への異議申し立てである。当時の社会状況や文化状況を反映して,その意味を単なる制度批判とみなしがちであるが,これらの作品はその本質において,モダニズム美術への明確な批判を投げかけていたのではないだろうか。(1) ミニマル・アートの出現と展開に関する詳細なドキュメントとしては,以下の文献の巻末に付された展覧会と文献に関する資料を参照のこと。(2) 抽象表現主義の画家たちは,しばしば展示空間としての美術館を否定して,展覧会への出品を拒否した。例えばニューマンにおける絵画と空間の関係については次の文献を参照のこと。Frances Colpitt, Minimal Art : The Critical Perspective, UMI Research Press, Ann Arbor, Michigan, 1990. Thomas Hess, Barnett Newman, The Museum of Modern Art, New York, -46 -
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