注理人は17世紀初頭に製作されたこの日本の輸出漆器を,17世紀のフランス製品と思い込んでいたという(注22)。フランスの家具職人たちが日本製漆器を新しい家具のために再利用していたのは18世紀のことである。19世紀後半を生きた彼らの思い違いは,どのように解釈すればいいのだろう。実は,19肌紀のジャポニストたちは,意外出品されたキャビネット〔図19〕は,シノワズリーと呼ばれる東洋趣味が,19世紀の日本趣味と結びついた興味深い作品である(注23)。トーマス・ジェキルがアレキサンダー・アイオニデスのためにデザインした机(ヴィクトリア&アルバート美術館所蔵)との共通性が指摘されているこのキャビネットには,南蛮様式の日本製漆器がはめ込まれている。明らかに聖画を収める聖寵〔図20〕を解体して,絵と額縁,左右の扉を再利用したものである。本報告では,18世紀の比較的著名な作例に絞って紹介を試みた。ただし,調査過程において,欧米で目にふれた日本の輸出漆器とその再利用,あるいは模造に関わる作品は非常に多い。18世紀の一端に触れたばかりではあるが,今後は,興味深い広がりをみせるであろう19世紀も視野に入れつつ,調査を進めて行きたいと思っている。(2) 山田智三郎著,薦谷瑞軋訳『一七,八世紀に於ける欧州美術と東亜の影響』,アトリヱ社,1942年(3) J. Irwin, "A Jacobean Vogue for Oriental Lacquer-Ware", The Burlington (4) 日高蕉「ドイツ漆芸品調査報告」,『漆・ニス等伝統的天然樹脂塗膜の劣化と保存に関する研究』,平成7年度科学研究費成果報告,1996年(5) Hans Huth, "Lacquer of The West", the History of a Craft and an Industry に17世紀の漆器を収集している。近年「JAPANと英吉利西展」(世田谷美術館)に(1) 0. R. lmpey, "Chinoiserie", Oxford Unversity Press, Oxford, 1977. 1550-1950, Chicago, 1971. Martha Boyer, "Japanese Export Lacquers", The National Museum, Co-penhagen, 1959. Magazine, vol. 95, London, 1953. John Hardy,'Western Japanning 1670-1770', in W. Watson, ed., Lac-querwork in Asia and beyond : Colloquies on Art & Archeology in Asia -550-
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