鹿島美術研究 年報第15号別冊(1998)
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⑰ 古代地中海圏(ギリシア,ローマ,エトルリア/古代イタリア,エジプト,近東)の美術工芸品を所蔵する日本の美術館及びコレクション研究者:東京大学大学院人文社会系研究科教授【概説】日本で,古代地中海園の美術工芸品を所蔵する美術館やコレクションは,今日まで把握しただけでも30数箇所を数える。これは勿論,この他に特に私蔵のものなど,重要なコレクションが存在すると前提しての話である。これらの,把握された美術館やコレクションの多くは東京首都圏にあるが,もう一箇所集中しているのは関西一帯で,大阪,京都,奈良の周辺である。これに加え本州西部(岡山,倉敷,下関)には,幾つかの重要な美術館が挙げられる。それに対し,現在まで本州北部,北海道,四国には,重要なコレクションは見当たらない。ここで興味の対象となる古代地中海圏の美術工芸品を所蔵する美術館やコレクションは国立,県立,市立,大学付属,私立,また個人所有と非常に多様であるが,これらの美術品が展示の主要部分を占める美術館となると僅かである。例えば,倉敷の峙川美術館,京都のギリシアローマ美術館,東京の古代地中海美術館(静岡県伊東へ移転のため,平成9年8月より休館)では,主にギリシア,ローマ,古代イタリアの美術工芸品が中心に集められており,主要な作品はすべて常設展示されている。三つとも私立の美術館であり,初めの二つは蛯川家に属し,もう一つはユニマット・グループの所有である。それに対し,東京の古代オリエント博物館と中近東文化センター,また岡山市立オリエント美術館は,近東美術だけを対象としたもので,主に江上波夫教授,あるいは三笠宮崇仁親王の主導,構想に基づいて創設されている。さらに,東京のブリヂストン美術館と松岡美術館には,古代地中海美術のかなりのコレクションがあるが,展示されているのはその一部にすぎない。その他の美術館は,この種の所蔵品の数自体が僅かであるが,その中には熱海のMOA美術館所蔵の,イタリア,プーリア地方出土の巨大な赤像式クラテールのように,質的に板めて優れた作品である場合も含まれる。また,下関市立美術館や大阪市立美術館など幾つかの美術館においては,古代地中海美術工芸品はすべて収蔵庫に保管されており,時折展示される場合を除き,一般の見学は不可能である。シュテファン・シュタイングレーバー(StephanSteingr註ber)-571-

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