鹿島美術研究 年報第15号別冊(1998)
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これらの美術館はそれぞれ,規模,建築,展示の様子においても根本的に異なる。例えば岡山市立オリエント美術館は,非常に贅沢な構想から成り,個々の展示品にも十分な空間が割り当てられている。最近開館された京都ギリシアローマ美術館は家庭的な性格が濃いが,そこに西洋擬古典主義的要素も,日本的要素もうまく調和させている。この美術館では,古代地中海圏からの美術工芸品が,幾つかの小さな居心地のよい部屋に展示されており,見学者達は,京都東山の美しい風景の楽しめるしゃれた休憩室で,クレタ産ワインを味わいながら一息つくことも出来る。これらの美術館のリストで一番新しいのは,信楽(滋賀県)のMIHOMUSEUMであるが,その,中国系アメリカ人建築家IeohMing Peiの設計になる意表をつく建築と,それをすっぽりと包み込む周囲の風景との調和は見事である。非常に個性的であるのは,京都の素晴らしい日本庭園の中に建つ小さな美術館,橋本関雪記念館の一連のギリシア陶器の展示である。ここでは,日本の美と古代ヨーロッパ/ギリシアのそれとが,互いを一層生かし合う素晴らしい調和を見せている。これらのコレクション自体の規模,性格,また質は,非常に多様であることは言うまでもない。古代ギリシア・ローマと近東の美術に関しては,日本の最も重要な美術館は以上述べた通りである。日本にあるこれらの美術工芸品の種類は非常に多く,またその素材も様々であるが,中でもギリシア陶器,それも主にアッティカ製及びプーリア製の陶器には特に重点がおかれている。これは,日本人が陶器に特に深い関心を持つことの表われであろう。また同様に,幾つもの主に個人所有のコプトの染織コレクションにも,日本人の織物に対する格別の関心が反映されている。他方,自然の成り行きとはいえ,日本では大型彫刻や建築の装飾部分などは稀にしか見られない。美術工芸品の素材としては,大理石やその他の岩石,漆喰,テラコッタ,金属(ブロンズ,鉄,銀,金),ガラス,木,象牙や骨,織物が挙げられる。これらの作品を地域別に見ると,陶器は一彩色されたものが多いが一,エジプト,イラン,イラク,シリア,トルコ,キプロス,ギリシアの島々,コリント及びアッティカ,イタリアのプーリア,ルカーニア,カンパーニア及びエトルリアの各地域で製作されている。エジプトからは他に,主に人間を形どった彩色木棺,石製の彫刻や浮彫り,ブロンズやファイアンス製の小型彫像や装身具,またスカラベが挙げられる。近東の古代オリエント文化の産物としては,陶器,印章,また小型彫像などが多い。日本にある古代ギリシア美術は,陶器の他にはキクラデス諸島からの大理石製偶像,同じく大理石製の彫刻-572-

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