—ホイヘンス稿本第1葉の示すもの一(Leonardo da Vinci. 1452-1519)の『人体権衡図』(Schemeof Human Propor-tions)(注1)は,彼の執筆した『絵画論』(Trattatodella pittura)(注2)と非常4)は,この本を16世紀に北イタリアで成立したホイヘンス稿本(CodexHuygens) ⑲ レオナルドの遠近法の作図方法研究者:札幌市立高等専門学校助教授向川惣一はじめに今日ヴェネチアのアカデミア美術館に所蔵されるレオナルド・ダ・ヴィンチに密接な関連を持っている〔図1〕。ルカ・パチョーリ(LucaPacioli. 1445-1517) は,その『神聖比例論』(Dedivina proportione)(注3)の序文のなかで,レオナルドについての消息をつたえている。パチョーリによって,ミラノ公ロドヴィコ・スフォルツァー(LudovicoSforza. 1451-1508)に捧げられた献辞のなかで,我々はレオナルドが絵画理論を取り扱った著作を完成したことを知るだけでなく,一般に「スフォルツァー絵画論」と呼ばれるレオナルドの原「絵画論」が人体の描写と動きを取り扱う技法書の性格が強いものであったことを窺うことができる〔図2〕。レオナルドのミラノの宮廷での消息から,イルマ・リヒター(IrmaRichter)(注と密接な関連を持つものと考えている。エルヴィン・パノフスキー(E.Panofsky) (注5)は,1940年に今日ニューヨークのピアポント・モーガン図書館に所蔵されているこの稿本をもとにして『ホイヘンス稿本とレオナルド・ダ・ヴィンチの芸術理論』と題するモノグラフを刊行している。ワールブルク研究所研究年報の第13号として出版されたこの論文は,ホイヘンス稿本の研究資料に止まらず,レオナルドの絵画理論研究を包括的に示した業績として喘矢が当てられるものであろう。パノフスキーの研究によってホイヘンス稿本がレオナルド自筆の手稿であることが否定されて以来,ホイヘンス稿本の研究は,主に編著者の同定とレオナルドの手稿との関連で研究されてきている。これはホイヘンス稿本の紙葉のなかに,現存するレオナルドの手稿から転写された多数の紙葉(foglio)が存在しているためであって,レオナルドの失われた手稿についての概要を知るための貴重な手掛かりとなっている。パノフスキーの研究以降,ホイヘンス稿本はウルビノ稿本(CodexUrbinas Latinus 1270)(注6)とならび,レオナルドの絵画技法を知るうえで最も重要な資料と言い-608-
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