鹿島美術研究 年報第15号別冊(1998)
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vius)の「円」としている(注26)。この円の内側には生殖器を中心とする円が描か"Occhio, Raggio, distanzia"としてホイヘンス稿本が取り扱っている素描技法の存在している。パノフスキーによると,原題は“LeRego le del Disegno"であったと推定され(注25),そのタイトルから,この手稿が『素描教則本』として編まれた描画指針であったことがわかる。全体では14書にまとめあげる予定であったものとされており,その内の最初の5書が今日,ニューヨークのピアポント・モーガン図書館に所蔵されている“CodexHuygens MA 1139"即ち「ホイヘンス稿本」である。この稿本第1書の第1葉は「人体に見い出される素描の第1図」〔図3〕と題され,正面から見た人体像を単純な線書きの模式図で表現したものである。パノフスキーはこの図を,幾何学的メソッドによって規定できる人体の形態と構造を表したものとして,2つの円のうち「大円」(circolomagiore)を,ヴィトルヴィウス(Vitru-れており,図の下部で地面を示している水平線と人体の正中線になる垂線との交点でこの「小円」は「大円」に内接している。身長を示しているこの円に接して頭頂部と足底部に水平線が描かれ,身長の高さを規準として,辺の長さ1対2の比率の矩形が与えられており,この矩形の2本の対角線の交点が小さな円の中心になっている。また,人体の正中線に重なる垂線と地面を示す下辺との交点には,矩形の右上に示された眼を象った目印の地点から,正方形の対角線が引かれている。この右上に示されている目印の地点から,矩形の長辺と短辺を半径とした2つの円弧が,点線で示されており,それぞれが対角線を切断している。「小円」で限定された人体像は単純な直線で表され,身体各部の比例の基準が水平線で示されている。この図の左上には眼の高さと視線と距離が扱われていることを示す文があり,内容が明示されている。“distanzia"の後ろに続く2行は,下の行の間に挿入された記述と推定され,この最後の文字“vedere"が次の行の不完全な“*dere"の代りに補われたものと考えられる。矩形の右上の角の眼の印の上には“vedere"と記され,この高さの水平線上に“Raggiodel vedere et linea horizontale et distantia"と記入されている。この印の所から出る2本の対角線に各々“Raggiovisuale"と記入されており,それと交差している対角線は“lineadel Piano alzato al Punto"と記されている。図の左側で身体各部に与えられた数値を見るとき,紙葉の経年変化と損傷のために,記文の判読は非常に困難ではあるが,ヴィトルヴィウスの基準がそのまま採用されたと推定される。“Dellasimetria/ Altezza"として,19行に渡って書か-611-

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