けをホイヘンス稿本全体のなかで正確に与えたものとして非常に重要な意味をもっている。稿本の第8葉〔図4〕に書かれたこの記述の中で「コンパスによって導出される」と書かれている方法そのものは,身体の運動が“moto"で示される関節を中心として,点線で規定された円弧を示すものと言える。パノフスキーは第1葉の作図方法について説明を与えてはいないが,ヴィトルヴィウス的人間と呼ばれる容姿の立派な人間“hominisbene figurati"(注29)の円とする「大円」がある。この円はレオナルドの『人体権衡図』の円に結び付けられてきたもので,ホイヘンス稿本を研究しているゾゥルナーなどの研究者もこのことを前提としている。稿本の第1葉において,作図上コンパスが使用されている音防分は,「小円」で限定される人体の全高とヴィトルヴィウスの記述する「大円」である。この他にパノフスキーは看過しているが,紙葉に描かれた2本の破線は正方形の対角線と2つの正方形を合わせたダブルスクェアーの対角線に交差し,基になった原図では作図上コンパスが使用されていたものと考えられる。ホイヘンス稿本第1葉の線書きされた人体のシェーマでは,手足と主要な水平軸(肩,腰,骨盤など)は直線におきかえられており,人体の中心線は地面(pianona-turale)に垂直な直線で示される。パノフスキーによると「大円」は,謄を中心とした円で描かれ足の先端に接しており,足を60度に広げ手を30度持ち上げるようにして手足を広げたときに人体は「大円」に接するものと推定されている〔挿図3〕(注30)。しかるに上記の命題1から直径1の単位円を身長としたとき,人体頭頂部と足底が「小円」で限定されるだけでなく,上記の辺の長さ1対2の矩形ABCDの対角線上に求めた線分AGの長さから第一葉の「大円」の直径が求められ,かつAFで半径が与えられる。このことは上記の命題が与えられたとき,コンパスを使って演繹的にこの円が導かれることを示している。さらに,矩形ABCDの対角線上に求められた上記の等比数列は謄を中心として,レオナルドの『人体権衡図』の基準線で乳頭間と胸の上端と髪の毛の生え際の基準線を通る円の直径になる〔図5〕(注31)。この作図からパノフスキーが「コンパスによって導かれる」というホイヘンス稿本第一葉の作図システムが明らかになるだけでなく,図の正方形と矩形に描かれた対角線を切断する2本の点線がコンパスによって導かれるものと言える。以上で示した稿本の第一葉に見い出される「ダブルスクェアーのフィオゲネシス」は,レオナルドがヴィトルヴィウスの比例基準に示された「調和比例」の分数システ-615 -
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