鹿島美術研究 年報第15号別冊(1998)
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(Punto)に向かう地面が示されている。したがって矩形の右上の角に示された「見ムを基に,黄金分割を『人体権衡図』に如何に当てはめたのかを示すだけではない。パノフスキーの指摘したホイヘンス稿本第1葉の作図システムは,稿本の第1部の第8葉に書かれており,この記述の前に身体各部の関節の動きを示す第1図としての説明がある〔図4参照〕(注32)。この図で注意しなければならないのは,各関節の可動れていることである。ホイヘンス稿本の第1葉の正方形と矩形に描かれた,対角線を切断する2本の点線がコンパスによることを示す例として,さらに重要なのは遠近法の原理を扱っている稿本の第92葉から99葉までの第5書の第1部である(注33)。対角線に交差する点線は,地面から眼までの高さを基準単位とし,この高さでつくられる正方形を作図するためのモジュールとしている。第93葉表では,矩形の対角線を切断する円弧を示す点線があり,第1葉の対角線を切断する2本の点線と直接対照することができる〔図6〕。このことから第1葉の対角線を切断する点線は,レオナルドの遠近法と密接に関係していることが推測される。この図の左上には「眼,光線,距離」(Occhio,Raggio, distanzia)として稿本が扱う技法の内容が示されている。この矩形の上辺には「見るための光線と水平線および距離」(Raggiodel vedere et linea horizontale et distantia) と示され,この水平線が視線だけでなく眼からの距離を示していることや,地面を示した直線が「地面の線および距離」(lineadel piano naturale et distantia)と書かれ,この両者で距離が取り扱われていることが示されている。2本の対角線には「視光線」(Raggiovisuale)と記入され,この二つの対角線と交差する対角線の記入では「点まで持ち上げられた平面の線」(lineadel Piano alzato al Punto)として,消失点を示した点る」(vedere)と記された人間の眼を象った目印は,ホイヘンス稿本第5書で遠近法の作図において視点を示した眼の位置を示す目印とおなじ役割を担っている。このため第1書の第1葉が遠近法を含め稿本全体を規定する幾何学的な基本図形と解釈する必要性がある。したがってホイヘンス稿本の第1葉は,単にヴィトルヴィウス的人間を規定している幾何学的な基本図形として示されているだけでなく,稿本の第5書の遠近法の作図システムをも示した基本図と考えることができる。点(moto)を中心として身体各部の動きを示す軌跡が,点線で示された円弧で描か-616-

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