l, P2, P3が求められる。ここで正方形の1辺の長さをモジュールとして,地面W「マギの礼拝」背景図の作図法レオナルドの遠近法を示す素描として有名な「マギの礼拝」背景図〔図7〕(注34)には,ケンプ(M.Kemp)(注35)やペドレッティ,ダリ・レゴリ(DalliRegoli) (注36)が指摘しているように,素描の制作過程で黄金分割を活用した形跡が残されている。篠塚二三男氏の言及しているこの背景図の消失点と黄金分割の関係(注37)は,ホイヘンス稿本の第1葉をレオナルドの遠近法の作図システムと考えるうえで重要な意義をもっている。なぜならば篠塚氏の明らかにした背景図の構図を決定する1対2の比になる枠組みは,筆者の「ダブルスクェアーのフィオゲネシス」の枠組みに相当するからである。この命題の系としてダブルスクェアーが与えられたとき,対角線を黄金分割する点に向かう黄金比の等比数列が幾何学的に求められる〔挿図2参照〕。すでに筆者が『人体権衡図』の身体各部の比例関係と黄金比の等比数列の関係で検討して来たように,ホイヘンス稿本の第1葉がレオナルドの基本作図システムであるとするならば,この紙葉には具体的なレオナルドの方法が残されている可能性が高く,何らかの形で黄金比の等比数列が関係しているものと推定できる。以下は「マギの礼拝」背景図の作図に,筆者の「ダブルスクェアーのフィオゲネシスの系」で導かれた黄金比の等比数列を適用したものである。《作図の第一段階,準備》〔挿図4〕最初に縦の長さに対して横が4倍位の横長の紙を用意する。この紙の端から横の方向に,1対2の比率の矩形を描き,筆者の「ダブルスクェアーのフィオゲネシスの系」作図のための枠取りをする。この作図のための枠取りは,左右いずれでもかまわないが,遠近法の作図のために距離点を取る側に余白が来るように設定する必要がある。ここでは「マギの礼拝」背景図を描く場合を例に記述していくので,枠すなわち1対2の比率の矩形は紙面の左側に取ることにする。さらに距離点の作図のため矩形の底辺を,余白の方向に外延しておく。《作図の第二段階,黄金比の等比数列》〔挿図5〕上記の枠内に「ダブルスクェアーのフィオゲネシスの系」を作図してゆき,対角線上に仮の消失点Vを求める。仮の消失点Vは,1対2の矩形の対角線を黄金分割に切断する点になっており,この消失点に向かって減少する黄金比の等比数列になる点Pから立ち上げる地点を背景図の視距離と仮定するとき「点まで持ち上げられた平面の-617-
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