鹿島美術研究 年報第15号別冊(1998)
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の方法として何らかのデカルト以前の幾何学的な方法が残されていないのかという視点から第1葉に描かれた幾何学的な原理を確かめたものである。筆者の命題「ダブルスクェアーのフィオゲネシス」が『人体権衡図』の身体各部の比例の基準線を決めているのみならず,遠近法の作図法をも決定するものと言い得るであろう。この命題は単に「マギの礼拝」背景図の作図方法であるのみならず,レオナルド自身の作図方法として,ホイヘンス稿本の原著作者をレオナルドに同定するための鍵といえる。この研究で示す結果は,レオナルドが「マギの礼拝」背景図を描いた時期に,既に黄金比の等比数列を知っていたことを示している。この「マギの礼拝」背景図を描いたのか第1次フィレンツェ時代に区分される1481年当時であることから,今後レオナルドの研究課題としてレオナルド自身の技法研究の過程が再考される必要性がある。レオナルドの数学的な知識の源泉とされるルカ・パチョーリとの関係など,美術史だけでなく数学史や科学史などにおいても,また解決しなければならない問題が多数残されていると言えよう。レオナルド・ダ・ヴィンチの実像は,イタリアルネッサンスにおける「万能人」(uomouniversale)として,それらの問題が明らかにされたとき一層確かなものとなるであろう。本論致は,辻茂先生の指導による筆者の『美術史』掲載論文「レオナルドの『人体権衡図』研究,その「円」と「正方形」について」と対をなすもので,東京芸術大学の西洋美術史研究室の助手時代,辻先生ならびに佐々木英也先生,越宏一先生の学問的な蕉陶によって,初めて美術史論文としての体裁を調えることができたものである。大学で油絵を学んでいた私にとって,レオナルドは画家としての関心から始まっており,学問的な世界とは随分異なった出発点といえます。レオナルドの研究をつうじて芸術大学在職中は芸術学科の諸先生や学生諸君には大変お世話になっています。芸術大学から札幌市立高等専門学校に赴任した後も,清家清校長ならびに中野正樹先生より美術工芸振興佐藤基金の助成によってイタリアでの在外研究の機会をいただきました。平成6年度,科学研究費の研究成果を基礎として,本論孜を纏めるに当たっては辻先生の推薦によって,鹿島美術財団から研究助成を頂きましたことを記して感謝致します。本論孜の図は本校の学生であった細矢恵子君の手をわずらわせました。付記-621-

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