鹿島美術研究 年報第15号別冊(1998)
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でに発表されているのだが,本国際会議では,日本とヨーロッパの美術が同じ地平において比較され考察された。このような方法論はこれまでまったく行なわれてこなかった。もちろん,そのような国際会議も開かれたことがなかったのである。会議前日の5日,夕方5時からセインズベリー視覚芸術センターで,シンポジウムの進め方について打合せをおこなった。その夜,オナイアン氏の私邸でパーティーがあり,今回のテーマを中心に,夜の更けるまで歓談が続いた。6日は,朝9時30分より参加登録が始まった。本来,これに続いてすぐ開会式,第1セッションが行なわれる予定であったが,ちょうどダイアナ元妃の葬儀と重なったため,午後からに繰り下げられた。10時より1時間半,シンポジウム会場でテレビ放映を大スクリーンに映して哀悼の意を表わし,われわれ日本人参加者も,イギリス人とともに1分間の黙躊を捧げた。昼食のあと,1時30分より開会式があり,日本大使藤井ひろあき氏(代読),イースト・アングリア大学副学長エリザベス・エスティーヴ・コル氏,オナイアン氏の挨拶があった。2時より,大英博物館のグラハム・グリーン氏の司会のもと,第1セッション「日本とヨーロッパにおけるマスターピースの本質」が開始された。まず,第1基調講演(キーノートレクチャー)として,高階秀爾氏が「マスターピースと名物一美術における価値の誕生」を講した。規範(カノン)による西欧の名作に対し,日本の名作は,名物という語に象徴されているように,歴史のなかで付加されていく「名」に重要な意味が認められることを示唆した。第2基調講演(キーノート・スピーカー)は,東京大学名誉教授秋山光和氏による「平安時代宮廷のマスターピースー源氏物語絵巻の美的特質と鑑賞者および源氏絵の流れ」で,隆能源氏のすぐれた美的価値と,現存する各帖の美的相違を明らかにするとともに,俵屋宗達に至る源氏絵の系譜を追った。続いて,つぎのような講演が行なわれた。ミミ・ホール・イェンプルサワン(イェール大学)「創造の秘密一平等院鳳凰堂はマスターピースか」千野香織(学習院大学)「ミストゥレス・ピースの文化ー源氏絵におけるジェンダーと階層」ハンス・ベルティング(カールスルーエ大学)「マスターピースの思想ー芸術という現代のフィクション」マイケル・バクサンドール(カリフォルニア大学バークレー校)-684-

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