—その制作年代と読者層cum canticorum)』『反キリスト(Antichrist)』,『往生術(Arsmoriendi)』などが⑨ 木版本『黙示録』研究者:町田市立国際版画美術館学芸貝佐川美智子本報告は「木版本『黙示録』一その制作年代,図像表現,後世への影響についての研究」という主題のもとに貴鹿島美術財団より助成を受けた研究成果を報告するものである。この研究計画の目的は,木版本『黙示録』の多くの異版,および関連する写本の検証によって,版画史と書誌学の両分野に渡る研究を統合し,1440■60年代の版画と書籍印刷の関わりの一端をあきらかにすることであった。この当初の計画に沿って研究を進めてきたわけだが,ここでは現時点での成果として,木版本『黙示録』の制作年代と読者層について,近年の研究を踏まえ,記述しておくこととしたい。木版本(注1)とは,図像も文字も一枚の版上に彫り出して刷り,その紙葉を綴じ合わせて書籍仕立てにしたものである(余白部分に文字を手書きしたもの,文字部分に活字を使用した例も少数ある)。通常は一葉の紙片の左右に二画面が刷られ,2頁分とする。多くは,紙面の裏から木の棒やヘラでこすって刷られる(まれに,両面に刷られた例,平圧プレス機を使って刷られたと推定できる例もある)。インクは茶が用いられていることが多いが,その場合のインクは水性である。そのため裏面への透過率が高い(注2)。また刷りの摩擦と圧力により,多く裏面には凹凸が生じる。こうしたことから,紙面の裏には何も刷られないことが多い。空白の頁は綴じられたのち,貼り合わせてある事例も見受けられる。こうすると,通常の書籍と変わらない体裁となるからである。貼り合わせないままの場合には,白紙の頁に手書きの文字が書き込まれることがある。木版本の図像部分の多くには,手彩色が施されている。木版本に採られた主題は種々あるが,一般にその主要な部分をなすのはキリスト教関連文献である。代表的なものには,『貧者の聖書(Bibliapauperum)』,『人間救済の鑑(Speclumhumanae salvationis)』,『黙示録(Apokalypse)』,『雅歌(Canti-ある。また数量的には比較的少ないが,世俗的な書物も作られている。これには暦や占星術書手相占い,巡礼の手引き書など,またラテン語文法書,算術教本,アルファベットの綴り方の教本などがある。これらをすべて合わせると,全部で30種以上のタイトルが確認されている。-89 -
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