鹿島美術研究 年報第16号別冊(1999)
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イ乍品を寄贈する意向を伝えられる。それに従い翌年11月に正式に〈岡山像〉が岡山県へ寄贈され,その後移管により現在は岡山県立美術館所蔵となっている。一方〈岡山像〉から2ヶ月遅れて完成した同形状同サイズの〈ボストン像〉だが,この像がボストンに渡った経緯の詳細は不明で、ある。ただボストン美術館は,岡倉天心に縁深い美術館であり,また天心の薫陶を受け引き続き同美術館に在職していた富田幸次郎が平櫛と接触を保っていたことから,天心像がボストンに渡るには,このメモリアルな時期は絶好の機会であったろう。現在の井原市立田中美術館の前身となる田中館が1969(昭和44)年に開館したのにあわせ,その翌年に鋳造完成したものである。現在は井原市立田中美術館の入口にあるが,当初から屋外のパブリックスペースに展示されている。手にするのは本物の竹竿で,あとはブロンズ製。全体に金箔が施されている。像高は〈茨城大像〉とほぼ同じであるが,両者を比較すると〈茨城大像〉は本物の魚龍を手にしているが,〈井原像〉はブロンズで一体的に作られている点,それから台座の形ヰ犬の二点が異なっている。おそらく〈茨城大像〉の原型を転用した部分もあろうが,大部分が原型からの新規制作と考えられる。なお原型は井原市立田中美術館に収蔵されている。山陽新幹線開通と,それにあわせた福山駅新築を記念して,駅前広場に設置された。貫生置に至る経緯は不明。サイズや,全身への金箔貼りなど,〈井原像〉と同形状同サイズと観察されるが,同作との具体的な関連や,制作のプロセスについては不明である。(三)〈五浦釣人〉各像の差異についてまず明らかなのは像高7尺8寸(約236cm)(注7)の〈茨城大像〉と,3尺3寸( lOOcm)の他の4体との,作品スケールとそれに伴う形状の変更による違いである。〈茨城大像〉では左手に取りはずし可能な実物の魚龍を持たせているが,他の4体では竹で編んだ魚龍を右肩から左腰にたすき掛けに像の一部として彫り出している。ウオーナー撮影の写真では〈茨城大像〉のように海釣に適した網の魚龍を左手にしているが,これを木彫で彫り出すことは技術的にも困難であり,また作品のバランスを考慮、しても賢明ではない。そのため平櫛は,当初の3尺3寸の像では,造形上の判01970 (昭和45)年〈井原像〉(ブロンズ)01975 (昭和50)年〈福山像〉(ブロンズ)

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