鹿島美術研究 年報第16号別冊(1999)
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西門左右安置八大菩薩等。虚空蔵菩薩。地蔵菩薩。除蓋障菩薩。慈氏菩薩。長殊室利童子菩薩。持地菩薩。蓮華手菩薩。秘密主菩薩。」(注23)に従って配置させている。すなわち,八大菩薩は左右共に両端部の菩薩は正面(門口)を向き,聞の二菩薩は本尊を向くが,全体的には正面向きの配置といえよう。すなわち,維摩会の文殊・維摩の向きも含めて,寵室像全体に正面向きの構図が現れる。また,左右相称を極めた構図をもっ石窟庵の窟内に相応しい構図としてみることもでき一種の統一性をもつことがわかる。なお,この復原案は善無畏系によるので,第④寵像は同じ善無畏系による除蓋障菩薩とすることができる。また,『尊勝仏頂修瑞伽法儀軌』に書かれる持地菩薩については,『大智度論』巻第四十に「坐道場者,有菩薩見菩薩行慮,地下有金剛地持是菩薩」とその名がみられ,また『観音経』の最後にも持地菩薩があらわれ,観音菩薩の法を聞いて,歓喜したとされる。また,胎蔵量茶羅の地蔵院にも三鈷杵を載せた蓮華をもっ菩薩形であらわされており,後に六地蔵の一人となる。しかし,地蔵菩薩のー性格をあらわす菩薩として表されていることから,地蔵菩薩と一緒に八大菩薩を構成する作例はなく,経軌においても『尊勝仏頂修瑞伽法儀軌』に説かれるのみである。以上のことから考えて,石窟庵における八大菩薩には持地菩薩が含まれていた可能性は極めて低いと思われる。その代りに『尊勝仏頂修瑞伽法儀軌』には説かれていないが,『大日経』などの経軌や現存作例にみられる普賢菩薩が含まれていた可能性が大きいであろう。このような,善無畏系による復原案は,八大菩薩の組合せとしても完成されたものであり,さらに二体ずつの組合せとしても完成度が高い。例えば,虚空蔵菩薩と地蔵菩薩,除蓋障菩薩と弥勤菩薩,文殊菩薩と普賢菩薩,観音菩薩と金剛手菩薩という,二菩薩セットの四組としても完成度が高い。すなわち,除蓋障菩薩と弥勤菩薩を除けば,仏三尊形式における両脇侍菩薩としても造像されているこ菩薩セットである。まず,虚空蔵菩薩と地蔵菩薩のセットは,日本の東大寺講堂に,天平19年(747)に千手観音菩薩立像を中尊とし,左右に虚空蔵菩薩立像と地蔵菩薩立像を配置させたことが『東大寺要録』に記されており(注24),京都・広隆寺講堂に道昌(798〜875)が造立した虚空蔵菩薩坐像と地蔵菩薩坐像のセット(注25)が現存する。次に,文殊菩薩と普賢菩薩のセットは,敦煙石窟の壁画に多く見られる他,五台山温湯寺塔内像(696年頃,現存しない。注26)をはじめ,ヴァイローチャナ仏(慮舎那仏・毘慮遮那仏・大日立日来)三尊や釈迦三尊の両脇侍菩薩として多く造像された。また,観音菩薩と金剛7

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