cmの小画面で、はあるが,それぞれ密度は高く,前述した草坪山水画の第3期の特徴を含みながら,様ざまな描法で描き分けられている。細部の描写もこまやかで,それぞれの画面全体の調子は緊密に保たれている。彩色には代鵡と藍が主に用いられ,第9図のみ緑青が使用されている。落款部分は,画題と署名があるものや署名のみのもの,また漢詩の一部のみを書いたものなどがあり,体裁上の統ーはとくになされていない。印章は,①州坪(朱文長方印)②好静(朱丈長方印)③雨字葉撃(朱文方印)④州・坪(朱文聯印)⑤首以楽死(白文方印)の五つが単独あるいは二組で使用されており,このうち③と④は初出の印である。後に詳述するように,各図にはそれぞれ草坪の中国画学習の成果が反映されているが,この種の画帖に「倣〜」(あるいは「擬〜j,「摸〜」など)というかたちでしばしば記される中国画人の名は,ここではみられない(注6 )。これは,草坪が特定の画人の画法のみにこだわらなかったためでもあろうが,この種の画帖を作成したという行為そのものを考えあわせると,自ら工夫した画法にたいする草坪の自信のあらわれとも受け取ることもできる。4.各図の検討つづいて,各図を順に追ってゆき,草坪の学習と工夫という視点から,それぞれの画面を検討してみたい。(第l図)〔図l〕「渡頭春色jの画題が掲げられた図である(注7)。画面には杏雨が模写した藍瑛(注8)の粉本と共通する樹木が描かれているが,全体は比較的穏やかな調子で統ーされ,とくに藍瑛風が強く意識されたものではない。近景と中景の樹林を重なり合うように配する構成は,この期の代表作である「寒江独釣図」(大分県立芸術会館蔵)にもみられる工夫で,視線を安定させる効果を生んでいる。擦筆を多用し色彩を引き立たせる描法には,田能村竹田が黄公望(注9)に学んだとする描法からの影響が指摘できるが,色彩の明度を微妙に変化させることで,より立体的な画面を描出している。点景人物の生き生きとした様子も,版本ではなく実在する作品を中心に学んだ成果であろう。(第2図)〔図2〕「江竹春煙」の題がある。署名には,これまで例がない「草坪間人」が用いられている。中央の家屋と人物は『撫古画式Jに登場するものである(原作者不明)。草坪はこの原図を左右に反転させ,さらには塀で因われた原図の家屋を竹林で囲むことで,自然のなかに,より情感豊かに描き出している。また,家中人物の姿態
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