元的に実修することが可能な体裁になっており本尊形像についての図はその一部分を占めているのである。このほか,『日本仏教典籍大事典』(雄山閤,1986年)は,内乱期の背景をもっ点,壇所での史料収集,不統ーな記載方式と豊富な経軌引用,異図・新図の探査,といった特徴を過不足なく述べている(清水乞氏執筆)。ただこの辞典を含め,主に勧修寺本を底本とする『大正新情大蔵経』本,主に増上寺本を底本とする『大日本仏教全書』本を指示し,他の伝写本のことに触れない点は問題である。覚禅自筆本は未発見で,書写本間には異同が多く,二刊本は絶対ではないのである。『覚禅秒』は広く活用される著名史料であるが,史料の根本性格に関係する基本事項についての共通理解が十分でなく,研究進展の条件を拡大するであろう諸伝写本への視角は共有されていない。本研究は,以上の諸問題を克服する筋道を得る目的をもっている。当面,『覚禅室長、』を次のように説明しておきたい。真言密教の尊法別百科事典ともいうべき聖教。『浄土院紗Jまた『百巻紗』ともいい,実際は140巻ほどある事相書。修法の典拠,勤修の先例,道具や道場の説明,法会の次第といったことに関し,経軌等の引用のほか図像400葉ほどを載せる。著者覚禅(1143らの付法弟子。覚禅の生涯かけた類緊活動は諸師直伝や壇所での秘書閲覧によった。直筆本は未発見。二種類の刊本以外に伝写本が多く,写本によっては部分的に独自記事を含む場合がある。内容には院政期の歴史的記事を多く含み,聖教としての成立・機能・伝来にも史的意義がある。では研究状況の一端を上のように見た場合具体的な研究課題をどう設定すべきか。第ーには,現存写本の詳細と全貌を把握する調査研究の必要性が挙げられる。勧修寺本・増上寺本のほか,万徳寺本の独自内容は近年報告書が刊行されつつあり(仏教美術研究上野記念財団助成研究会研究報告書『図像蒐成jII〜),金沢文庫本については奥書部分の独自記事のみ指摘された(神奈川県立金沢文庫特別展図録『密教図像−「覚禅紗」の世界一l1999年)。本研究では,随心院本を悉皆調査して鎌倉後期から室町期にかけての写本を多数確認し,同時に近世写本ーセットを見い出した。東寺観智院本については,中世写本について,不明だ、ったデータの詳細を把握した。また観智院聖教中に,吉祥薗院本と呼ぶべきーセットを見い出し,近世延宝期の書写ながら,勧修寺本と親縁関係にある良本たることを確認した。勧修寺本原本についても全点調査〜1213年以降)は,浄土院阿闇梨・少納言阿闇梨ともいい,勧修寺興然や醍醐寺勝賢-201-
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