⑫ サン・スヴ工ールのベアトゥス写本挿絵における一連の動物モチーフについてlat. 8878, 11世紀中頃に制作)の挿絵の数点には,現存する他のベアトゥス写本挿絵一一中世の写本挿絵における星座図像との関連において一一研究者:同志社女子短期大学嘱託講師柴田いずみはじめにフランス国立図書館に所蔵されている『サン・スヴェールのベアトゥス写本』(ms.には見出されない一連の動物モチーフが認められる(注1)。たとえば,巻頭(f.1 ) の「献呈の辞Jを装飾したページ〔図1〕には,兎,犬,鳥,蛇などが,f.119の「四方の風を押さえる四人の天使達」〔図2〕には,周辺部の青い円環の中に,魚のほかに,上半身が獣,下半身が魚の姿をした生物が,それぞれ描かれている。さらに,f.139v. の「第二のラツノリ〔図3〕には,画面の下半分に,魚、とともに,脚の六本ある生物が見出される。こうした生き物は,中世の写本挿絵の星座図中の動物の表現に着想を得た表現ではなかろうか。本稿ではサン・スヴェール写本中のこうした動物モチーフの起源について考えてみたい。第一章中世の写本挿絵における星座図第一章では,サン・スヴェール写本の一連の動物の表現との関連において注目される写本群(主として星座図が描かれた写本)を四つのグループに分け,それぞれの特徴について記述する(表lを参照。以下,それぞれの写本の略称として,所蔵館の頭文字と写本の番号とを組み合わせたものを用いる)。[第1群]Recensio Inteψolata 写本群古代ギリシアの詩人アラトスの『星辰詩』(Phainomena)に関しては,幾つかのラテン語翻訳版が紀元前l世紀より存在した。7世紀頃にはAratusLatinus (ラテン語版アラトス写本)と称されるラテン語翻訳版が作成された。その後あらたに編纂されたRe-censio Interpolatα写本(改訂版アラトス写本,この写本群を以下RI写本とする)には星座を描いた挿絵が挿入されている。これらの挿絵入り写本は中世における星座図像の伝播に重要な役割を果たしたに違いない。なお,ザンクト・ガレン修道院図書館所蔵の二点の写本(S902, 250)は,いわゆるハインリッヒ二世のマント〔図16〕(パンベルク教区博物館所蔵)に含まれた星座図像の生成に影響を与えた可能性があるとさ-235-
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