鹿島美術研究 年報第16号別冊(1999)
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れている。さまざまな星座図像が金刺繍として縫い込まれたこのマントは,1020年頃にレーゲンスブルクにおいて制作され,ハインリッヒ二世に献呈されたものと推定されている(注2)。[第2群]天球図(planisphere)が収録されている写本群10世紀末にフランス北東部のサン・ベルタン修道院において制作されたB-188写本を参照して,11世紀初頭に制作されたのがB-88写本であるとされる(注3)。これらの写本およびL647写本には,ほぼ同様の構成を有する全頁大の天球図が描かれている〔図13, 14, 15〕(注4)。[第3群]リモージュにおいて制作された写本群フランス中部のリモージュのサン・マルシアル修道院には重要な写本および七宝焼工房があった。この修道院の修道士であったアデマール・ド・シャパンヌが1025年頃,L-15写本を制作する際に参照したのが,F-5239写本(10世紀の作)であるとされるoW-735C写本は11世紀初頭の作であると推定されている。これらの写本中にも,それぞれ星座図を描いた挿絵が挿入されている(注5)。[第4群]『星座の配列ならびに位置について』が収録されている写本群フランス国立図書館所蔵のms.lat. 12117番のf.131から137v.に収録されているDeordine ac positione stellarum in signis (星座の配列ならびに位置について)という文書の中にも,様々な星座が挿絵として描き込まれている[図4〜8J。これらの一連の挿絵は,サン・ジェルマン・デ・プレ修道院長アドラルドゥスの在位(1030-1060年)中に活躍した画家インゲラルドが描いたと推定されている(注6)。一方,ヴァテイカン図書館所蔵のReg.lat. 309番のf.91からf.99にもこの文書が挿絵とともに収録されている。この写本は850-875年頃サン・ドニ修道院で制作されたと推定されている。前述したF-12117写本の星座を描いた挿絵はこの写本からテクストと共に直接転写された可能性が高いとされている(注7)。第二章個々の動物モチーフに関する比較第一章では,星座図を含む様々な作例を列記した。第二章では,これらの星座図における動物の表現を各モチーフごとに比較し,それらがサン・スヴェール写本の一連の動物モチーフとどのような関係にあるのかという点について考察したい。236

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