2-(1)伝世品に共通する特徴2.正徳アラピア文字文装飾青花の特徴① 器種として碗や鉢〔図l〕・皿〔図2〕・瓶〔図3〕・壷〔図4〕の他に香炉〔図倣したが,その器面を縦横無尽に飾っていたアラビア文字装飾をとりいれることはなかった。この正徳という時代に限ってアラビア文字文の青花が焼かれているのはなぜなのかを考えてみたい。第二に,皇帝款年製銘の表記法が,前後の時代と異なっている。皇帝款銘が使用され始めた宣徳では,銘には四字銘,六字銘があり,その表記法にもさまざまなものが見られるが,それが習慣化するにつれて,明代を通じ「大明口口年製」という六字銘が官窯製品の大半を占めるようになっていく。正徳になると,官窯祉からの出土品や五爪龍文に代表される官様のものの銘は四字銘であり,六字銘が見られるのは,官様とはかけ離れたアラピア文字文の製品である。ここで問題としたいのは,なぜ、四字銘と六字銘の違いがあるのか,その違いにどのような意味があるのかということである。これらの疑問は,まだ明らかにされていないところの多い明代中期の官窯の様相にも関わる問題である。本稿はアラビア文字文青花の生産背景の考察を通じ,正徳官窯の様相の一端を明らかにしようとする試論である。加えてその明代後期への影響を見ることによって,明代陶磁史全体の流れの中での正徳という時代の位置づけを考えたい。正徳時代に特有のアラビア文字装飾の作品で,現在までに知られている資料とその所蔵先を示したものが表lである。それらに共通する特色として,以下のことが挙げられる。5〕,筆架〔図6〕や硯扉〔図7〕,合子〔図8〕,方金〔図9〕,その他机上で使われたと思われるもの〔図10〕など,様々な文房具がある。アラビア文字を装飾文様に持ちながら,元青花の大盤や明初期永楽・宣徳に作られた水注や燭台のように,明らかなイスラーム金属器形の模倣品はなく,中近東では使われることのない,むしろ中国でのみ用途を持ち得るような文房具が多く見られる。②款銘は『大明正徳年製』の六字銘である(注3)。六字銘は,銘が記されるようになった宣徳以来,明代を通じて官窯製品の大半に付されたものであるが,正徳時代では『正徳年製』の四字銘が大部分の官窯社出土品の銘であり,六字銘はこのアラビア文字文装飾の一群と,後述するある特殊な一群に限-249-
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