鹿島美術研究 年報第16号別冊(1999)
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3.六字銘を持つ正徳作品伝統官様の継承六字銘を持つ正徳作品の具体的作例を示すと,①青花花果文(a)盤〔図11〕,同じ文様で鋳花,青花黄彩,②前者と花の種類を異にする青花黄彩花果文(b)盤〔図12〕,③青花雲龍文盤〔図13〕,④白磁緑彩龍文碗〔図14〕,⑤黄紬碗〔図15〕である。花果文はいずれも宣徳(1426-35)作品の写しであり,成化(146587)・弘治(14881505)にも数多く作例のあるものである。これらの文様は五彩への関心が高まり様々な色彩の開発意欲が高まっていた宣徳において,青花・鏡花や青花黄彩だけでなく,瑠璃粕白花,紅彩,白地黄褐彩と技法的に幅広い作品を残している。雲龍文盤は,元末から明初期の碗や盤に見られる装飾意匠で,紅紬(注5)のほか,内外を別の色紬で掛け分けた瑠璃紅紬(注6),瑠璃褐紬〔図16〕,白磁黒粕(注7)など数多くの作例がある。これらは内側面に印花(型押し)で五爪双龍文を表わし中央に暗花(線刻)で三雲を配したものである。青花の例もあり(注8),中央の印花三雲文を青花に代え,外側面にも青花龍文を加えている。五爪龍文の使用に厳格な元時代において五爪龍文であること,さらに南京の洪武宮社から出土した白磁紅彩〔図17〕や青花の盤片〔図18〕にもこの雲龍文が見られることから,この三雲双龍丈が元以来の官様式であったことがわかる。この意匠はさらに永楽(1403-1424)の青花(注9)に継がれ,内側面の印花龍文を暗花に代えている。資料を入手できていないが,宣徳にも作例がある(注10)。弘治(注11)・正徳(1506-21)では内壁の暗花龍文はさらに省略され,内壁は無文となっている。緑彩の雲龍文碗は,弘治に盛んに作られたものであるが,見込みに五爪龍,外側面に双龍という文様としては宣徳の青花に既に認められている。そして黄粕碗も明初期官窯に多く見られ成化・弘治にも継がれているものである。このように,正徳の六字銘作品は,元末・明初以来踏襲されてきたいわば古典的官様である。この古典官様に当時の官窯の大半を占める四字銘ではなく新趣のアラビア文字文青花と同じ六字銘を付したところに,両者を同列に置こうとした生産意識がうかがえる。4.景徳鎮管理における宣官の存在主よ上のような現象がなぜ生じているのか。ここに本稿では景徳鎮の生産に関わる宜官の存在を見い出している。実際の焼造を監督する監陶官について文献資料にあたってみると,明朝における宣官の存在が大きく浮かび、上がってくるのである。宣官は中国歴朝において常に亡国の因といわれるほどの勢力をふるった存在であっ-251-

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