鹿島美術研究 年報第16号別冊(1999)
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(2) 大講堂ホワイエの天井及びタイル装飾の水平線がミナレットの垂直線と調和することによって達成されたものだとして,ミナレットの垂直線が加わらなければ,ドームに漂う見事な精気は達成されなかったであろうと述べている。タウトが大学正面に取り入れた円弧のラインと,それに続く分節された壁面は,イスラム寺院のアウトラインと同じ効果をもつことが確認され,この効果をさらに増幅させるために,タウトはイスラム寺院と同様の自然石による仕上げを選択したものと考えられる。前述の建物正面の自然石仕上げの他,大学の建物内部はほとんどの部分が白の吹き付け塗装,床面は薄いベージュの人造石で仕上げられているため,ドイツ時代に展開された色彩豊かなタウトの建築とは対照的な印象を受ける。さらにこの建物に取り入れられている木材は木地のまま仕上げられており(室内の板張り腰壁,木製枠に素通しガラスをはめ込んだ間仕切りなど),タウトは構想全体を素材主義の上に展開させたとも考えられる。タウトの素材主義は,色味の異なるレンガのみを用いて,変化のある外観を作り出したドイツ時代の表現(たとえば,1914年のライベダンツ洗たく工場)などにすでに認められるものであり,これは北ドイツの伝統的な建築手法でもある。素材による簡潔な表現が与えられている建物のなかで,特徴的な表現が認められるのが大講堂ホワイエの空間である〔図4〕。第一の特徴的な表現は,講堂l階の出入口になる奥まった空間と,講堂2階につながる階段〔図5〕及び事務所・講義室につながる階段の昇降口となっている空間(出入口ホール側)が,ひとつながりの空間でありながら,それぞれに異なる表現が与えられていることである。この空間がひとつながりのものであることは,同じ素材で仕上げられた床面の連続によって示されている。しかし出入口ホール側の空間と,講堂出入口のある奥まった空間は,天井仕上げの素材によって明確に区分されているのである。出入口ホール側の天井が,床材と同程度の明るいベージ、ユ色の吹き付け塗装で仕上げられているのに対して,同じレベルで続く奥の天井を格天井に切り替えることで〔図6〕,広いひとつながりの空間が視覚的に間延びする傾向が回避されている。第二の特徴的な表現は,装飾タイルによるものであり,唯一人工的な色彩が認められる部分でもある。薄いベージ、ユ色の石張りで仕上げられた壁面及ぴ柱には,その粗-281-

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