鹿島美術研究 年報第16号別冊(1999)
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い石肌の聞に濃淡のある横長のブルーのタイルがはめ込まれている。この表現は第一の表現で見た空間の区分にも関係づけられているものである。まず出入口ホール側では帯状の装飾タイルは柱だけに用いられている。とくに出入口ホールとの聞の柱はタイルで埋めつくされているが,その他の柱のタイルは,垂直方向へと伸びる柱に,ブルーの細い帯として等間隔に配されることによって,空間に変化とリズムを与える効果を果たしている。一方,奥の空間内(講堂出入口前)の柱は石張りだけで仕上げられ,タイルは格天井につながる壁面全体に,出入口ホール側の柱と同じ帯状の模様として用いられている。壁面を水平に区切るブルーのラインは,突き当たりの壁面では幾何学的な模様を描き,天井の格子,柱にとりつけられた照明の球形とも呼応することで,大学内で最も装飾的な空間を表現しているのである。タイルを用いる手法自体は,これまでの指摘にもあるように,すでにイエナ大学(1906)に認められる(注8)。しかしイエナ大学における角タイルが,腰壁などの汚れ防止といった実用性も兼ねて取り入れられているのに対して,ここでのタイルには実用的な役割はいっさい課せられていない。むしろタイルは,装飾を目的として付加されている。建物正面の自然石仕上げが15世紀以降のイスラム寺院のイメージに関わる表現であったとするならば,装飾のみを目的として取り入れられたタイルは,イズニックタイルによって建築全体を装飾するイスラムの伝統的な文化が,タウトによって解釈された表現であったと考えられる。くまとめ〉今回の調査によって,文学部棟の理念上のふたつの支柱その表現が明らかになった。ひとつは,機能と合理に基づく新たな時代の建築のあり方であり,いまひとつはインターナショナルスタイルの対極にある民族・風土の強調である。工事が竣工してまもなく,タウトは書簡に次のように記している。「(前略)こちらでモダニズムの典型的な表現とみなされているような箱形の建築にはならないでしょう。それどころか私は様々なトルコのモチーフを取り入れるつもりです。」(1937年11月6日付上野伊三郎宛)タウトはイスラム寺院を想起させる外観と,イスラム建築の伝統を特徴づけるタイルなどによって,この意図を実現させたことが今回の調査で明らかになった。日本の282

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