計りがたい,従って時には憧れの対象であったり,時には恐れの対象であったりするといわれる(注1)。つまり,未知に対する憧れと恐れの対象であり,自分たちが存在し知覚している範囲外はすべて異国であったのである。絵画表現に即しても同様なことがいえ,国の別などは何ら問題でなく,中国も新羅も天竺も異国であることにかわりなかったばかりか,想像上の国土である地獄や竜宮もまた,異国としての範障ではほぼ同一であったのである。ところで,異国を描く絵巻物が多く遣されているということは,それに対する関心の強さの何よりの表れである。画家は異国に対する知識が皆無といってよい状況であったにもかかわらず,見る者にそれと知覚させる必要があった。ここに画家の想像力と工夫が生まれるのである。一概に絵巻物といっても,中央の絵師によるもの,地方絵師によるもの,また物語をテーマにするもの,仏教的主題による説話物など,その種類や画家の系統によって描法が異なっている。ここでは,その個々の描法を論じるには及ばないが,「異国を描く」点においては個々の画家が抱いていた課題は共通していたはずである。そこで,異国を描いた絵巻物の全容を通してみると,画家が異国として描く際には,暗黙に了解された約束事が存在することが判明するのである。画家が異国の場面を表現するにおいては,異国をイメージする事物を描くことにより異国の場を示す工夫を行っているが,それら主なものを列挙すると以下の通りである。① 舶来文物(械強・錦などの敷物,青磁など輸入陶磁器,瑠璃,太湖石等)このうち今回の研究では,主に①舶来文物(械強・錦などの敷物),②文様,①湧雲(霊芝雲)を中心に課題とし検討を行った。② 文様③ 湧雲(霊芝雲)④ 水墨技法による画中画⑤ 建築内部における石畳⑤ 獅噛,獅子などの動物の象形⑦ 椋欄,芭蕉など南方の植物-289
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