鹿島美術研究 年報第16号別冊(1999)
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ハUつ中(2) 異国の表現法I 柏来文物特に敷物について源豊宗氏によれば,伝高階隆兼筆の玄英三蔵絵と鎌倉地方絵巻の東征伝絵を比較し,異国を描くにあたり,「宋文化のいち早く取り入れられた鎌倉の地で画かれた東征伝絵は,そこに描かれている中国の建築でも人物でも,比較的その実態を写している。Jとするが(注2),他方で中央の絵師は異なる観点で工夫し異国を描いたことも考えられる。特に玄英三蔵絵は,全十二巻のほとんどを天竺という未知の異国をとらえたもので,画家の苦心の様と工夫がうかがえるのである。よって今回舶来文物の課題に取り組むにあたり,特に中心に検討した作品は敷物描写が多彩である玄英三蔵絵であった。源豊宗氏が,玄英三蔵絵において「この画家は特に染織品に興味をもったかと思われるほど,僧達の衣や王宮の敷物などに,骨を惜まずこまかな筆を用いている。」と述べているように,敷物の描写や文様の細やかさが魅力ともなっている。敷物の描写に力を入れた作品では,他にも彦火々出見尊絵(注3)や吉備大臣入唐絵などが挙げられるが,中でも玄英三蔵絵では色鮮やかで多様な文様をもっ械訟や錦などの敷物を頻繁に描いており,繊維の質感までくまなく描写する丹念さである〔図1〕。ここに描かれる敷物は械盤,錦等の染織品であると考えられ,以下考察を述べることにする。まず械訟について検討すると,玄英三蔵絵において械訟は彩色を点描することにより毛織物の繊維の質感を引き出している。このような点描による械訟の描法は,東京国立博物館十六羅漢図(旧聖衆来迎寺蔵)第一,三,九,十,十四,十五尊者にみられるが,唐代の図像をもとにしたといわれる羅漢図には異国的な要素が強く,異国を知るのに好画題であったことは確かで、ある。羅漢図には,縁に房をもっ織物を椅子の背に掛けている例が多くみられる。例えば,東京国立博物館十六羅漢図,滋賀県宝厳寺十六羅漢図第三尊者であり,南宋時代の寧波仏画である相国寺十六羅漢図では,白地の部分に点描で隈を施すことによって毛織物の柔らかい質感を表している。なお,園城寺新羅明神像も同様な形式をもっていることは指摘の通りである(注4)。これら毛織物を椅子の背に掛ける形式が吉備大臣入唐絵における唐の皇帝の椅子や,弘法大師行状絵詞における恵果の椅子(巻3-5段),唐の皇帝の椅子(巻47段)に採用されているのである。小松茂美氏は吉備大臣入唐絵を描くにあたって仏画に構想、を得ていることに言及しているが,特に玄英三蔵絵のような天竺における僧侶の生

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