鹿島美術研究 年報第16号別冊(1999)
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i舌を描くにあたっては,同じく天竺における修行僧の実態を描いた羅漢図のような主題の仏画が参考にされたであろうことは想像に難くない。なお,玄英三蔵絵や彦火々出見尊絵に頻出するのをはじめ,能恵法師絵調,教王護国寺蔵弘法大師行状絵詞には,床一面に敷かれた敷物(地敷)が描かれる。現存する染織品から考えるとすれば,7,8世紀頃にはフェルト状の毛織物の一種である艶が流入し,またその技術を用いて日本で制作されており,現在でも正倉院や法隆寺に遺品が遣されている。異国を表現するのに,このような舶載品が題材の参考にされたことも十分に想定される。次に錦に関してであるが,玄英三蔵絵には文様鮮やかな錦のような染織品が頻出する。錦,綾などは古来より重要な輸入品であり,後世に至るまで伝来裂として珍重されてきたものである(注5)。一方,仏画においても錦は荘厳として描かれることが多い。宝厳寺十六羅漢図第三尊者には,室内装飾品としてさりげなく描かれている。また,現在メトロポリタン美術館や,奈良国立博物館に所蔵される十王図などの寧波仏画では,色彩の鮮明なる染織品の表現は顕著である。羅漢図の例では,金大受筆東京国立博物館十六羅漢図のうち第二,三尊者に唐花文様の施された敷物がみられる。寧波仏画である十王図や羅漢図などは日本にも多く流入していることから,このような外来の仏画が異国を描いた絵画として参考とされたことも十分に考慮される。この他にも仏画には敷物の描写は,文殊・普賢菩薩像の象座・獅子座上の敷物(例,ー蓮寺釈迦三尊像など)や,十三天像における駐撞座(例,東寺十二天画像)など,多様である。房付きの敷物の表現は9世紀の唐時代の仏伝図幡(敦埠莫高窟,大英博物館蔵)や,奈良国立博物館刺繍釈迦如来説法図などにも表されていることから,古来より舶来品の象徴という意識が根在していたことが想定できる。II 文様吉備大臣入唐絵について若杉準治氏は,「文様の使用には,舞台が異国であることを示す,異国的な雰囲気を出すという効果がある。そのことは,文様の描写において金泥が多用されていることからも窺われる。Jと指摘している(注6)。玄英三蔵絵に描かれる染織品にも,様々な細やかな文様がみられる。それらは波文,動物文,雲気丈,連珠円文,唐草花文などである。これらの文様は,7, 8世紀に錦291

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