※今回対象とした湧雲(霊芝雲)表現をもっ作品は,春日権現験記絵,承久本北野天神縁起絵,教王護国寺蔵弘法大師行状絵詞,知恩院蔵法然上人絵伝,シカゴ美術館蔵融通念仏縁起絵(上巻),クリーブランド美術館蔵融通念仏縁起絵(下巻),当麻受茶羅縁起絵,稚児観音縁起絵,天狗草紙三井寺巻A,松騎天神縁起絵,桑実寺縁起絵,石山寺縁起絵,信貴山縁起絵,歓喜光寺・清浄光寺蔵一遍聖絵,華厳宗祖師絵伝(義湘絵),大江山絵詞,土蜘妹草紙,玄英三蔵絵,東征伝絵,道成寺蔵道成寺縁起絵である。たj栗山幽谷も,やはり日常と隔離された非日常的な世界なのである。夢中の二天女(道成寺縁起絵下一1)⑦深山幽谷常陸国雪景色(一遍聖絵5-4)鎌倉の道中(一遍聖絵5-5)以上の分類の通り,湧雲が描かれた場面は,①地獄,天上界などの異界,②神仏に類する道釈人物の出現,③鬼・外道などの出現,Ci社寺,霊地,⑤霊験の現れた場,⑥夢中の場面,⑦深山幽谷である。いずれの場面も日常の現実から隔絶された夢や霊験,神仏の出現など非日常性の強い場面である。これにより,絵巻物において湧雲を描くという背景には,超自然的な力や非日常性の表れという意味付けがあることが理解できる。しかし,これは必ずしも絵巻物のみにいえることではない。例えば,神仏を描いた阿弥陀来迎図や尊像画などの仏教絵画にも雲が描かれる場合が多く,羅漢図には周囲に雲気が立ちこめている例が多い。また,i栗山幽谷を描いた水墨山水画などの中国絵画には雲気表現が顕著である。これら仏教絵画に表された道釈人物や山水画に描かれここにおいて,絵巻物は物語の内容を観者に適確に理解させる必要性をもつため,日常から隔離された場を描くには,非日常を示す一種の記号が必要で、あった。そこで利用されたのがこの雲気ということであったことが考慮される。絵巻物では霞を描くことが常套手段ではあるが,非日常性という物語性を際立たせるためにさらに湧雲を描くことによって場面に変化をもたらしているのである。おわりに車会巻物において異国を描くためには観者に異国と悟らせるための題材が必要であっ297
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