oqu 鑑みて判断するならば,その一見流動的だが実は垂直水平線を意識した比較的安定した構図であること,ヴェネツイア派を意識した優雅な色彩が配されていることなどから1630年頃と推定されるであろう。関連素描としては,大英博物館に,縦18.5cm,横15.2cmのベージュの紙に,この画家としては珍しくサンギーヌで描かれた作品が残されている〔図2〕(注11)。軽い線描で描かれたこの素描をプラントとフリートレンダーは1630年頃,ブリグストックは1630年代初頭と年代付けたのに対し,ローザンベールとプラは完成作の制作年代をテュイリエに従ったのに伴い1626-27年頃としている。完成作と素描との最大の相違は,後ろを行く龍を背負う男の不在である。他の人物は,位置,身振りともほぼ同じであるが,個々の違いを敢て指摘するならば,左端のプットーの持つ笛は油彩では7本のパイプからなるのに,ここでは4本であること,サテュロスの腰回りに蔦がないこと,ニンフの黄金の冠と思しき髪留がなく,衣が手にかかっていないこと,ニンフを後押しする有翼のプットーの手が左右逆であることなどに加え,後景の左に見える群葉を備えた森林がなく,中央でわずかに右に傾いで垂直に走る大樹が素描では二本,逆方向に傾いている。素描はラフな線であるものの,油彩にまして左右対称の安定した構図であり,画面と平行のプランの上にモチーフが置かれた浮彫的な空間表現がなされている。今日までに少なくとも8点の模作が伝わっている。そのうち良質な作品として,パイヨンヌのボナ美術館の作品〔図3〕,ジョン・ブラックウッド(JohnBlackwood)旧蔵作品,そしてカルヴァドスのフォンテーヌ・ヘンリ一城に伝わる作品が知られる(注12)。複製版画についてはアンドルセンが伝えるように,モーリス・ブロット(MauriceBlot, 1753-1818)による版画のみが存在する。1769年にフィリップ・ジョゼフ・タッサール(PhilippeJoseph Tassaert, 1732-1803)が同様の構図を版刻しているが,この原画は銘文に示されているとおりブラックウッド旧蔵になる模作である(注13)。現存する資料の中でカッセルの作品に名前を与えた最古のものは,1731年の売り立て目録であるが,ここには「オヴイデイウスの物語(Eenfab巴lvit Ovidius)」と記されている。ブロットの版画の銘文は「ファウヌス,サテユロス,ハマドリユアスの旅(Voy-age de faunes, de satyres et d'hamadryades) J , 1769年のタッサールの版画には「バッカスの信徒たちーサテュロスに跨がるニンフ(Bacchanalians: Nymphe chevauchant un satyre) J (ただし模作を刻したものであるが)と記されている。スミスの1837年の作品口
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