鹿島美術研究 年報第16号別冊(1999)
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(3)の方が幾分整えられた印象が与えられるので,後になるかと考える。(5)は小袖文様三.定型的図様の提示先に,B・Cグループを定型的図様と呼ぴ,その中でもBグループを先に成立したと筆者は考えると述べたが,その理由を先ず説明したいaB ・ Cグループは基本的に構図,図様構成を共有している。大きな差異は,室内背景と調度類の有無であるが,他には小袖の数の増減,配置のずれ,異動,文様と色の変更といった部分的変更が見られる。逆に共通部分を具体的に記せば,左隻左部分,床上の寄せ裂れ文様,衣桁上段左端の震文,肩裾構成付け紐,振り袖の特徴的なかたち,下段左2領の白地桜散らし丈様,朱地散らし文様,右隻衣桁上段の2つ折りに掛けてある扇文様,下段の縞文様の小袖などがある。こうした小袖の文様,かたちの配置を基準に見て行けば,自ずとBがCグループの祖型となっていることが了承されよう。またBグループでは,辻ガ花染,縫箔,摺箔などの染織的施工技術がある程度推測がつくのに対し,Cグループは文様の簡略化,絵画化が進んで、いて推測しにくいことも理由となる。こうした文様のパターン化の傾向を見る限り,例えば,(6)ホノルル本から(4)本興寺本へという流れは考えにくいのではないだろうか。さてBグループの(3)根津本(4)本興寺本は一見,構図,図様構成が全く同じ同工異曲の作品であるが,比較して見ると,(4)の方が辻ガ花染などの文様表現が率直に表され,が丸紋散らし,洲浜文散らしと,他と少し異なり,辻ガ花染らしい古様な表現が多い。しかし,画面は六曲から二曲に表装し直され損傷が激しく,補彩も多い為,制作時期は,現状では確定しにくく,ほぼ同時期という他ない。Cグループは全体的に,類型化と単純化が著しい。そして,左隻の衣桁配置が右上りの斜線で表されることに特徴がある。その中で(6)ホノルル本が最も古様で初発性が感じられ,グループの他作品の祖型と考えられる。(6)の小袖の形態と配置,文様や色に基準をおくと,(7)個人蔵本は良く似ている。右隻衣桁の配置がl扇分左に寄り,左隻の衣桁が青竹に変わる。小袖の文様は12領中8領の小袖が類似している。(8)は右隻のみ現存のもので,小袖が順不同ながらほぼ一致する。(9)メトロポリタン美術館A本は構図を反転した形で一致する。左隻のみ現存の側三井文庫A本,(1功B本,同メトロポリタン美術館B本のうち,同には上端右端の小袖l領と帯2筋が付け足されるが,それ以外は3点共同じ図様である。注目されるのは,3点共通して下段右端の小袖を蝶文様にしていることであるが,333

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