ぶことにする。この宝楼閣図は,主に柱などの直線や壁などの平面から構成された立体が画面上に表されたものであり,その観察を通して画工の立体表現に対する技術と意識を知ることができる。また個々の図は,いずれも画面の周縁部に配置されており,各画面における配置場所にある程度共通性があるため,画面中における配置場所の分析を通して画工の画面構成に対する技術と認識を知ることもできる。これらのことから,宝楼閣図は,画工の技術的傾向を比較検討する場合に,有効な考察対象であると考えられる。そこで本稿では「大画面の浄土変jの宝楼閣図に焦点をあてることにしたい。莫高窟・初唐期の宝楼閣図(次章に述べる分析ポイントを観察可能な程度に保存が良好なもののみ)の資料を列挙したのが別表lである(注10)。三,分析のポイントまず分析に入る前に,宝楼閣図の基本的な図法について確認しておきたい(便宜上,宝楼閣図の厘根を取り外したと想定し,〔図1-i〕と〔図1-ii〕は立方体によって示す。)。第一に,宝楼閣の「前面」が立画面(以下「画面」と略称する)に対して平行に置かれ〔図1i〕,その結果宝楼閣の「前面」〔図1iiのbefc〕は実形で表される。第二に,視糠(注11)は相互に平行で,それが画面に斜交するように投象する。その建物を平画面〔図1-iii〕に対して平行な面で切った場合,その同一面上の奥行き方向の線〔図liiのa'b'とct'ピ〕は,互いに平行になるように描かれる。重層楼閣を例にすると,上層の「右側面J(注12)と「左側面」の高欄架木は互いに平行に表される〔図2-iiのabとcdは平行〕(注13)。第三に,奥行き方向の線の斜度(奥行き方向の線と水平線とのなす角度)〔図1-ii 〕をめぐり,以下の点が指摘される。宝楼閣図は大多数が重層であり,その奥行き方向の線は,①下層高欄架木〔図2iの①〕,②上層高欄架木又は下層屋根軒先〔図2i の②〕,③上層屋根軒先〔図2-iの③〕の三部分に大別される。これらの奥行き方向の線の向きは,その宝楼閣図が画面の中軸線〔図1iii,図4〕の左側に位置する場合,右上がり〔図2-iiの①や②〕,右下がり〔図2-iiの③〕の二通りが考えられることになるが,当時の画工は,まず①下層高欄架木〔図2iの①や図2iiの①等〕は,いずれの場合においても,右上がりに描いた。そして,②下層屋根軒先及び上層高欄架343
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