2.作品考察ができる。まず,クレーとグロッスの精神性の違いを強調しながら,二人の世界は相容れないものとする見方がある。もう一方には,上の意見と必ずしも対置しているとは言えないが,グロッスの作品からクレーがそのモティーフを借り,採用したとする研究がある。後者の,グロッスの作品からクレーが影響を受けたとする意見を述べた研究者は,オット・カール・ヴェルクマイスターで,クレーのイ乍品の中にグロッスのモティーフを主に発見している(注3)。そして,前者の見解の支持者はカローラ・ギーデイオン=ヴェルカーで彼女は「時代を永遠の相の下に生きるクレーのような人間と事態をもっぱら現実的に捉える,今日的状況にとらわれた心象との聞には相容れないものがあったjとしながらその差異を強調している(注4)。初期のものから末期のものまで両者の作品を全体的に見渡すと,c.ギーデイオン=ヴェルカーの意見を真正面から否定できない部分があることも認めておくが,だからといって,二人の影響関係を彼女のように無視することはできないと思う。また,O.K.ヴエルクマイスターが正しい指摘をしてはいるものの,彼が見過ごした作品を取り上げてクレーのグロッスからの影響に関してさらに比較・調査することが必要で、あると思われる。本稿は結果的にO.K.ヴェルクマイスターの意見を,より確かなものにし,拡張するものになるであろう。1920年にクレーが描いた油絵の〈ドイツの口髭をした頭部〉は,明度の高い色と低い色の対比からくる画面全体の鮮烈さ,そして小さい長方形を少し混在させながらも多様な大きさと形態の多角形で分割された人物やその背景の表現のため強い印象を観者に与えている。また,色彩とペンによる鋭い線で分割されたそのような手法は,作品の造形的構築性を高揚させつつ画面の外側まで拡張していく印象を生みだし,実際の画面の大きさより一層大きく見られる働きをしている。さらに,板と紙の二つの層に描いたこととその上色の重ね塗りが普通のキャンパスの上とは違って透けて見えることからもたらされるマチエールも面白みと重厚さを増している。絵の主人公の頭部は,何本かの線で軽く描写された髪の毛とはれたような験,また大きさが違う目,それに比べて非常に小さく描かれた鼻,ユーモラスに描かれた口とその髭,等の表現によってデフォルメされ,皮肉られている。上の方に向けて曲げら(1) 〈ドイツの口髭をした頭部〉と〈ドイツ冬物語〉373
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