鹿島美術研究 年報第16号別冊(1999)
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(1) 墨画に彩色を加え,没骨的なものや鈎動的なものも相応に表現し,完成画に近い(3) 塁線に彩色を加えるが,彩色を加えない部分があったり文様を一部しか描かない(4)比較的丁寧に輪郭のみを墨線であらわしたもの〔図5〕。(5) 墨線を中心に訂正や試行錯誤の跡を残しながら描いてはいるが,一枚の料紙に原(6) 一連の襖絵・扉風・杉戸絵などの大画面を縮図にしたもの。これには,墨画のみ(7) 人物や山水花鳥などを一つの画面を構成することなく,雑然と書きつらねたり,3.当絵画資料と短尺の書き込み絵画面に注目して本資料を大別すると,おおよそ以下の種類に分類することができるとおもわれる。イメージのもの〔図2〕。(2) 墨画のみで描かれるが,やはり完成画に近いもの〔図3〕。など見本的で,これを補う色注が付されるもの〔図4〕。則として単一の画題が描かれ,全体として一つの画面を構成しているもの〔図6〕。のものと彩色がほどこされたものがあるが,後者はほぼ完成画を想像させうる丁寧な表現がなされるが,前者には,完成画に近いものとかなりラフな構想段階のものがある〔図7〕。動物の生態をいろいろな視線から書いたりといったいわゆるスケッチ風の雑画が描かれているもの〔図8〕。この分類は,表題に貼付された短尺形に書きこまれた符丁と,厳密なものではないが,おおよそ,以下のように対応するようである。つまり,「天」および「紫」に分類される資料は,(1)(2) (3) (4)に相当し,「草稿jが(5),「御下絵」が(6)に該当する。短尺が資料の約9割に貼付されることは先にも述べたが,この短尺の存在は,いつの時代にか,この資料を主題や性格によって分類整理した人がすでにいたことを示唆している。短尺は,寛政2年(1790)の年記が記される資料から,文久3年(1863)の年記のある資料まで貼付される。ほぼ同様の状態で貼付され,保存状態も同様であるので,おそらく文久3年以後の一時期,ほほ同時に分類整理されて貼付されたと考えられる。短尺貼付にともなう分類整理は,この資料が窓外に出たことがないことから,岸派内部の人によりなされたことはほぼ確実で,短尺書き込みの分類を尊重しながら,以下,個々の資料の性格にふれてみたい(注4)。-420-

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