〈「御下絵jに分類されるもの〉「御下絵jに分類される資料は,20件ほどでしかなく全体に占める割合は低い。初出は,寛政9年(1797)の岸駒画の縮図であるが,むしろこれは例外で18例のうちほとんどが嘉永・安政の岸岱による襖絵などの縮図で,禁裏関係のものが多いのが特色である。縮図という点で,ーまとめにされているようだが,嘉永6年・安政2年の扇の絵付けは縮図とはいえない。また山水図の小襖絵(394)は岸駒画の原寸模写と思われるのでむしろ「天」部に分類すべきか。簡単なスケッチ風のもの(392)から本画を彩色入りで縮小したようなもの(343)まであり一言でまとめることはむずかしいが,「御jと冠されていることから,禁裏や貴顕からの発注で描かれ,一部に朱で訂正を入れたもの(388)もみられることから,完成画を縮図したのではなく,打ち合わせ用の縮図であったのかも知れない。今後この点は検討してみたい。なお山水図(394)の小襖絵・芦雁図(292)を除いては何らかの原本を模写したものではないようである。以上貼付短尺書き込みの分類にもとづいて本資料を絵画面から検討してみた。大づかみではあるが,それぞれ,完成絵画の原寸模写,下図作成のための構想画,検討用縮図という具合に比較的無理無くその性格が分かたれたのではなかろうか。短尺が付されていない資料は数も少なく,いずれかに分類されるものがほとんどであるが,数点の唐紙に書かれたスケッチ類は特段のテーマ無くメモ風に描かれたものでいずれの分類にも該当しないものとして分類しておくべきであろう。4.完成絵画との関係本資料の中心的な部分が,原本を充分に想像するに足る一連の模写本ではないかということは先にも記したが,このことは,本資料にのこされている図様とこれに相当する本画を比較することができれば,具体的に検討することができる。まったく充分な数ではないが,以下の3例について,現存の完成画と比較してみたい。そのーは,天保9年(1838)の豊干図(190)〔図9〕で,完成画は平成元年度に当館収蔵の豊干・寒山・拾得三幅対の中幅〔図10〕にあたる。完成画では豊干の肉身部・如意・虎の体などに淡彩が入っているが,模写ではそれが略されているものの,表現や寸法はほぼ正確に写しとられている。ただ模写本は画面下部の余白が省略され,逆に右側は完成画よりも少し広い。完成画では表装の際に少し切除されたのかも知れない。完成画の落款は「九十齢越前守岸駒Jとなっており,天保9年12月に没する岸駒423
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