424~ 5.裏面表題の最晩年の作品であるが,模本の表題も「天保九戊成五月中涜/豊干禅師三幅対中/天間翁所図/護堂摸/同功館収蔵jで,時代・画題・三幅対の中幅という点まで一致しており,この模本と完成画を結びつけて矛盾はない。ちなみに,完成画には「同功館執事」発給の領収証のごときものが付属していて,三幅対が4両で岸駒工房から出荷されたことカfわかる。そのこは,表題に「弘化丙午二月三峯摸/富巌足柄牧馬/先生所図/同功館蔵」と記される「富巌足柄牧馬図」(232)〔図11〕で,対応の完成画は岸岱作のやはり当館の収蔵品〔図12〕である。この模本も表現・寸法の両面で完成画の雰囲気を良く写しており,画面上部の余白を模本では省略しているが,全体に施される淡彩も的確に賦彩される。完成画の制作年代は,いままで不明であったが,この絵画資料によって岸岱61歳の作とわかった。その三は文化6年模写の虎図(98)〔図13〕であるが,岸駒の絵のなかでも最も有名な前田育徳会蔵の「水呑の虎」に,図像・表現・巨大な法量の諸点で非常に類似している。しかし,背景の松の配置・土坂の様子など若干の相違点があり,今後の検討課題としたい(注6)。以上完成画と模本の比較ができる作品をあげてみた。多くの資料中,2点のみで全体を語ることには無理があるとは思うが,おおよその傾向として,完成絵画を推しはかることも充分可能な模本ではないかと考えられる。本絵画資料の約9割の裏面には,表題の如き,文字の情報が記されることは前にも記したが,ここでは,年記・所図者・模写者の三点に限って簡単にふれておきたい。〈年記〉元号・干支・月日などが記されるが,「享和元年三月二日卓堂摸写」「文化戊辰秋八月摸」「弘化三年丙午春摸」などと「摸jを付して記されているものが多いので,「御下絵j「草稿」などを除く模写された資料については年記は模写の時期を示すものと考えられる。表面の絵画面にも款記が写され,その中,年記をもつものがある。例えば,虎図。D)では「庚申夏写応正風亭主人需落観J,双鶴図(201)では「天保十三年歳次丑夏四月」,蘭亭由水図(209)は「天保壬寅(13年)秋応駿陽/白井生需」などであり,これに対応する表題記年はそれぞれ「寛政庚申新秋前七日太郎摸」−「天保十三年
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