既述の「絵師書上Jによれば，その幽汀門には商工業に従事する家の子弟を主とする多数の弟子がいた。その中でもっとも著名なのは言うまでもなく応挙である。師承の事実は円満院門主祐常の筆録した『高誌Jはじめ諸書に記されており，そのことを傍証する狩野派の筆法による初期作品もいくつか知られる。また，原家の伝承では原派の祖・在中も一時期幽汀に学んだとし，後に土佐光貞の門に入札復古的なやまと絵画風を一つの潮流に押し上げた田中前言も初期における幽汀への師事が伝えられる。自身と同様に基本的にはアカデミックな絵画界に身をおいたと思われる江村春甫のような画家も育てているが，幽汀が京都の狩野派の中でも言及される機会が多い理由は，言うまでもなく，新傾向の画家として一家をなした弟子を輩出した事実にある。勝山家は，鶴沢探山の弟子・山崎如流斎に学び，後に土佐派にも学んだ琢舟に始まる家系である（注6）。先の前言の場合も含め，同じアカデミズム系とは言え和漢の画派の間で実際に門弟の去就があったところには，土佐派が名実ともに存在感を保ち，かつ禁裏を頂点とする公家社会が絵画界のクライテリアを作り上げていた京都の特殊な地域性が垣間見える。吉田元陳およびその門弟たちも，当代の京都画壇において小さくない位置を占めていたことが諸資料からうかがえる。元陳については綾部市・上林禅寺の襖絵作例が報告されており，数点の小品も遺されている。また実作品は管見に入っていないが，杉山元春，谷川元庸，吉城元陵いずれもが僧綱位を得て，宮廷周辺の画事にたずさわった。圏域寺法明院の方丈に探索や応挙，琢舟らとともに障壁画を描いた大森捜雲も探鯨門下である。以上の鶴沢派とは別に，山本宗泉という町絵師の息子で，後に直接探幽に師事した素程以降の山本家が京都における狩野流の一支脈を形成した。山本家の歴代については，光琳の師を探求する研究過程において，福井利吉郎氏や田能村忠雄氏により三代・素軒に考察が加えられ，それと平行して亀岡家の過去帳を調査した相見香雨氏により代々の伝記が整理され，また近年では四代・宗川に関して，西本周子氏や泉万里氏によって新出作品の紹介や画歴の解明が相次いでなされている（注7）。山本家ではその後，亀岡家から養子に入った守札とその子・亀札（後に父の本姓に復す）が応挙に師事して画風を一変することになるが，それより前，宗川にも狩野派風からの逸脱が見出せる。これについては，後に幽汀の画風を考える際に再び言及する。さて京都の狩野派という場合，一般には永徳の弟子・山楽以降のいわゆる京狩野家462
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