⑧ 近世風俗画に描かれた陶磁器とその用途について研究者:佐賀県立九州陶磁文化館学芸員藤原友子はじめに近世陶磁器(一般に桃山から江戸時代の国産の陶磁器を指す)についての研究は,近年考古学調査による豊富な新資料の提供があり,とりわけ編年研究において進展をみている。また,江戸に代表される大消費地と村地との年代と品質の格差,あるいは生産地から消費地への流通研究など多角的な分析も試みられてきている。従来,近世の器物における用途研究は民俗・民具学的アプローチによって大系的にとりくまれているものの,地域差や階層差についての考察にとどまり,年代という時間軸とともに語られることはなかった。一方,陶磁器とその用途に関する情報を絵画資料から抽出する試みが,一部の陶磁研究者が行っており,絵画の年代と描かれている陶磁器の機能に関する考察が行われている(注1) (注2)。本研究では,近世絵画に描かれている陶磁器とその使用の場に注目し,年代順に追って概観することを試みた。近世風俗画は,当時の生活具をかなり具体的に描写していると思われる一方,多分に観念の世界を現わしているものである。そこに描かれている陶磁器は,実際その場に存在した可能性があるが,「その情景にあるべきjと描き手が想念したものがあらわされていると考えられる。現実の姿から遊離し,単なる想像図あるいは理想図となっている危険性をはらんでいる。しかしながら近世風俗画は,観者に対しては情報提供という役割ももっており,画面上にある器物は,その場にふさわしい機能を暗示しつつ絵画によって普及されていくこともあったと想像される。したがって,描かれた陶磁器は,ある場面に常套的に配置される現実性の高い存在物と考えたい。扱う絵画資料は近世風俗画とし,桃山時代から幕末にかけて描かれたものを対象とした。情報はデータを集積し,別表にまとめている。16世紀末から17世紀中頃近世初期風俗画と呼ばれるこの時期の風俗画には,名所絵や月次絵の伝統を受け継ぎ,都市生活者を内包した「洛中洛外図扉風jや宴会に興じる人々を内包するさまざまな「遊楽園扉風」などがみられる。陶磁器が画中で忠実に再現されるかには作品に490
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