鹿島美術研究 年報第16号別冊(1999)
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よって差があるものの,描かれる場面には共通したパターンのようなものが存在するように思われる。l:喫茶具として(碗,茶入)茶は人の集まる辻や寺社の門前,あるいは祭礼や花見などの歓楽地の描写に一服一銭と称する荷い茶屋や簡単な小屋掛けの茶屋として画中に登場する。また,邸内の一室に炉を切り茶席をもうけている光景や,茶棚に飾った茶道具に当時の喫茶状況がみてとれる。一服一銭一服一銭はく高雄観楓図扉風〉(別表No.1), <風流踊図〉(別表No.16),<洛中洛外図〉(別表No.21), <四条河原遊楽図〉(別表No.32), <祇園祭礼図扉風〉(別表No.48) などにみられ,近世初期の風俗画に顕著で、あるが時代が下がるにつれあまり描かれなくなる傾向があるように思われる。いずれも碗が木製の桶あるいは台に置かれているのが描写され,茶売りは茶集で茶を点てているので抹茶であろう。描写が比較的細かいく高雄観楓図扉風〉を見ると,三足付きの桶にいろとりどりの碗が描かれている。緑色に彩色されている大振りの碗がみられるが,これは青磁と考えられる。中国からの輸入製品であろう,蓮弁文が描かれている。赤で彩色されているものは陶磁器ではないように思われる。竹内順一氏はこれを天目台としている(注3)。同じく狩野秀頼作と考えられているく厩図扉風〉(別表No.3)にも天目台が朱塗りであらわされていることから,碗とともに赤く描かれているものは天目台の可能性は高いと考えられる。茶屋描かれている茶屋としてのしつらえは立派なものから粗末なものまでさまざまである。門前の茶屋として描かれているものがみられるが,これは名所にまつわる光景として不可欠なものであったのであろう。茶屋は描かれる寺社を聖地とする中世に展開する参詣呈茶羅の流れを継承するものかもしれない(注4)。この時期に描かれた茶屋で興味深いのは茶とともに焼き餅が売られていることである。それらの情景は,〈祇園・北野社遊楽図〉(別表No.16), <東山遊楽図〉(別表No.29)などに描写されている。これらは,京都の名物として『毛吹草』(寛永十五年)に門前茶屋の菓子があげられており,描かれた焼き餅はそのような名物菓子をあらわしたものであろう。描かれている陶磁器の多くは碗であり,鮮明に再現されてはいないが,〈東山遊楽図〉には茶色で-491-

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