鹿島美術研究 年報第16号別冊(1999)
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つ山口同AせU彩色されたものがあり,天目碗のように解釈できる。これらは瀬戸や唐津の鉄粕碗の可能性もあろう。また,〈祇園・北野社遊楽図〉には白地になんらかの文様を表現した碗がともに描かれているが,これは染付碗の表現かとおもわれる。この絵が描かれた時代は国産の磁器生産が肥前で始まった頃でもあり,中国青花碗と肥前産の染付磁器の可能性が考えられる。邸内茶席〈士女遊楽図扉風〉(別表No.24), <調馬図・厩図扉風〉(別表No.23),<邸内遊楽図(相応寺扉風)〉(別表No.41)などに描かれているように,邸内で茶を楽しむ情景は,佑ぴ茶の形式にのっとって道具類が再現されていることが興味深い。台子を中心に釜,水指,勺立てが飾られ,茶布,蓋置き,茶勺などの道具も配置されている。〈調馬図・厩図扉風〉では茶頭が茶を点てているが,碗は口縁が広く,いわゆる山路を呈した沓茶碗の形であらわされている。色は白く,いかにも和もの茶碗の形態をなしており,志野茶碗ではなかろうか。また,お運びをしている小姓が手にしている碗は黒く描かれている。半筒形をなしているこれは黒楽茶碗のように見える。和もの茶碗の受容の様子があらわされている。〈士女遊楽図扉風〉には茶入が描かれているが,こちらも和もの茶入らしい作為的ななだれの表現がある。産地を特定することは難しいが,瀬戸ではなかろうか。水指や茶碗は深緑の地に白の丸文が規則的にあらわされており象翫文様の表現と解釈できる。象醍文は本来高麗茶碗にみられ,その強い影響下にあった肥前の陶器窯の製品が知られる。茶席に続く縁先に竹を編んだ桟がしつらえられ,上には大きな鉢が置かれる。陶器らしい鉄柚の流れがみられ,木製の蓋と柄杓がともに描かれている。手水鉢として利用された壷の底部であろうか。2:食事場面(大皿,皿,瓶,播鉢,碗)宴席現世享楽の場面を描いたものが多い近世風俗画において,陶磁器が描かれる機会はこの宴会風景が最も多かったことが想像される。この宴席において顕在するのが大皿である。大皿の受容については荒川氏の画期的な研究(注5)に詳しい。〈花下群舞図〉(別表No.8)に見られるように,包丁人の脇に置かれ,鯉かと思われる魚の刺身がもられている。瓶(徳利)も描かれているが,白磁かと想像されるのみである。〈東山遊楽図〉(別表No.28)では瓶は黒で描かれており,金属製(錫製)の可能性も考えられ

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