鹿島美術研究 年報第16号別冊(1999)
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17世紀後半から18世紀初頭前時代にひきつづき,主に飲茶,宴席,喫煙という場面に陶磁器が描かれている。描かれる陶磁器は染付とわかる描写が多くなり,肥前産の染付磁器の普及を示しているように思われ興味深い。菱川師宣による吉原風俗描写は上記の飲茶,宴席,喫煙等の場面描写をすべて内包しており,こうした場面以外での陶磁器の使用でこの時代にみられるのは聞香図であろう。また,単発的ではあるがく洛中洛外国巻〉(別表No.86) にあらわされた陶磁器商店は注目できる。また,田村水鴎による美人画中(別表No. 110, 111)にあらわされた器物として,火入(香炉)や茶碗などがみられる。l:菱川師宣あるいは菱川派による吉原風俗宴席〈吉原風俗図巻〉(別表No.77, 80)には多くの染付皿,鉢,碗などの食器類が描かている。宴席の描写には座敷きに直に複数の皿,鉢類が置かれている。箸がそれぞれの皿には添えられているが,取り皿となる小皿は描かれていない。朱塗りの盃,査台がみられ,酒を飲んでいる。瓶(徳利)は描かれず,朱塗の蓋をもっ銚子(金属製とみられる)が酒注ぎの役割を果たしている。火入,灰落,煙草入がのせられた盆(煙草盆)が描かれ,喫煙風景が描写されている。他の宴席風景ではく上野浅草風俗図巻〉(別表No.90)には磁器製とおぼしき蓋付査も描かれている。これはく北楼及び演劇図巻〉(別表No.67)にも見られ,同じく盆にのせられ特別扱いされているような感がある。内容物は特別な珍味であろうか。調理場〈吉原風俗図巻〉(別表No.73)には大きな調理場が描かれ,そこには鯛や蛸など新鮮な食材が調理されている情景がみられる。包丁人の脇には染付の大皿が置かれ,大きな播鉢も見られる。調理場の棚には朱塗の盆や重箱などが収納され,染付の大鉢や磁器製らしい徳利も並べられている。床の間床の飾りにみられるのは,香盆とおぼしき朱塗の盆で,香炉と香合がのせられている。これは寝所にみられ,特別床の間飾りにされている描写は,香道具が他の道具と異なり格調づけられている様相を表している。また,飾り棚には獅子の置物と花生,蓋物らしきものが置かれておりこれらも高級な器物であることを配置上暗示させられ-494-

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