る。緑色で彩色されているこれらの器物は青磁かあるいは金属製品の骨董の可能性があろう。茶屋吉原の茶屋でも碗が描かれているが,茶屋以外の場でも天日台に碗をのせて給仕する姿がみられる。高級遊女のたしなみとして茶は吉原でもたてられ,客がもてなされたのであろう。しかしながら,碗が多く描かれているのは,宴席より手前に位置する待合の茶屋で,釜と茶入とともにみられる。2:美人画にみられる陶磁器(煙草盆,碗)美人画は寛文年間に優品が知られ,〈喫煙美人図〉(別表No.65)のように煙草盆に火入(象訳文様か),あるいは花生を描いた優雅な婦人像がみられる。〈美人物思い図〉(別表No.103)は香炉と花生が描かれ,宝永年間ころの作とされる田村水鴎のく縁先美人図〉(別表No.110)には蒔絵の天目台と蓋付きで使用されている碗が描かれている。このように木製品と組合わせた碗の使用はたびたび見られる。縁先美人図は伊勢物語の「河内越」の見立絵という解釈もある(注7)。このような美人図にあらわされた陶磁器類は,描かれる美人をとりまく生活にふさわしいとされた器物であり多分に観念的で、はあろう。しかし,優雅な美人の優雅な点景として喫煙,香,茶という趣味性の強い高級感のある器物が選択されていることに注目したい。18世紀前半(享保年間頃)から18世紀末までこのころの陶磁器の描かれかたは,風俗画の多様化にともない傾向をつかむのが難しい。ひきつづき宴席場面にはよく描かれ,それ以外には笠森稲荷の茶屋などには多数の碗が描かれている。このころに現われ始めるのは化粧の場面,床九の煙草盆などである。とくに床九の煙草盆は喫煙の一般への普及を示しているように思われる。1:飲食,喫茶における陶磁器(皿,鉢,小皿)宴席18世紀前半には,菱川派の吉原風俗画を踏襲したような宴席風景がみられるが,18世紀f麦半には風俗画全体の画題の噌好が変化したのか,大皿がたくさん並び,人々が多く千子き交うようなモブシーンの宴席は描かれることが少なくなっている。6名の人495
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