鹿島美術研究 年報第16号別冊(1999)
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物が集い,三味線などの音楽に興ずる場面が描かれた〈邸内遊楽図〉(別表No.167)は染付皿,蓋付鉢,小皿などが描かれている。それらは直に畳には置かれず,盆や膳の上に置かれている。小皿はとり皿であろうか,直に畳席に置かれている。酒はやはり銚子から朱塗の盃に注がれている。これらの染付磁器は肥前産のものであろう。文様は唐草丈のようである。文様が同じ揃いのものであった可能性もあろう。場面は貸し座敷として使用された料理屋ではなかろうか。宝暦から天明年間には料理屋が数を増したという(注8)。〈料亭四季庵図〉(別表No.175)にも名所としての料亭が描かれ,宴席場面がみられるが,染付かと思われる鉢(端反り)が台に乗せられて描かれている。茶屋・美人手前(碗,水指)美人画の一種とも言えようが,茶屋の娘を描いた風俗画が18世紀後半に現われる。このころに描かれているのは,谷中笠森稲荷の茶屋「かぎやJの評判娘お仙,大和茶屋「蔦屋」のおよし,浅草「難波屋Jのおきたである。ここで出されていた茶は,抹茶ではなく煎じ茶であったようである。時代は下がるが幕末風俗を伝える『守貞漫稿』では茶碗について,I三都とも磁器茶碗也」(注9)とあり,煎じ茶についてもさまざまなものが出されたことを伝える。画中には茶先が描かれておらず,釜に薬纏(どびんか)がかけられているものがみられ,煎じ茶であるように解釈できる。天目台が描かれており,盆ではなくこれに乗せて給仕していたものと思われる。くやまとちゃや〉(別表No.139)には筒形碗と丸形碗の両方が描かれており,〈笠森おせん〉(別表No.156)にみられるのは筒形の碗である。同じく笠森お仙を描いたとされるく笠森稲荷社頭図〉(別表No.166)にはさまざまな文様の丸形の染付碗が描かれており,この頃の茶屋では二種類の碗が同時期に存在したものと考えられる。一方,茶道の形式による茶は,邸内でたしなまれていたようで,やはり美人画としてその様子が描写されている。例えば〈茶室〉(別表No.161)には碗と水指が陶磁器らしく描かれているが,産地まで特定できる情報を,描写は提供していない。このように描かれた茶の手前形式が正当なものであるかは疑問が残るが,茶が婦女のたしなみともされていたことを伝える。2:化粧における陶磁器(碗,猪口,賓盟)〈化粧美人図〉(別表No.134)には猪口が黒塗の化粧台におさめられている様子が描-496-

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