Aせウtかれている。描いた絵師の西川祐信の好んだ画題であるのか,版本のく百人女郎品定〉(別表No.140)にも化粧風景を描写している。化粧時に使用された陶磁器製品は口をすすぐ碗(激碗),猪口(紅猪口),紅皿,箆立て,霊盟などがある。女性の化粧風景だけでなく,役者の化粧風景もしばしば描かれているく楽屋内の中村仲蔵〉(別表No.170)。役者の化粧道具には蓋付き(ほこりよけのためか?)の碗が見られる。19世紀前半から幕末までこの時期は活躍した絵師が多数でそれぞれが多様な画題に取り組んだことから,間磁器も描かれる機会が多く,前時代の風俗場面にはヲ|き続き描かれさまざまな場面で陶磁器製品がみられる。新しいジャンルでは,長崎の唐人〈唐館室内図〉(別表No.193),蘭人風俗画にみられる陶磁器がある。画題が多様なため描かれる場面の一般的な傾向を提示するのは難しいが,絵師によってはその場の陶磁器を忠実に再現しようと試みており,描かれた陶磁器はその場にあったという現実みを強く帯びている。l:歌川豊国〈時世粧百姿図〉にみる陶磁器(皿,鉢,猪口,蓋もの,蓋付碗,重箱,小皿,碗,火入,どぴん,瓶,筒形碗)歌川豊田の晩年の作であるく時世粧百姿図〉(別表No.218 227)は,題に時世粧(いまようすがた)と読み,さまざまな当世風俗を描いた26幅の画である。lから13の場面は武家,町人,農村女性の風俗,14から26は遊女の風俗に取材したものとなっている。描かれているのは女性ばかりではあるが,かならずしも美女ばかりではなく,表現されているのは単に理想情景ではない。描写されている器物も実際に存在した感を強く呈している。この作品の中で注目したいのは別表No.218の町内の街頭風景,別表No.219の遊廓の料理である。まず街頭風景では,染付大皿を持つ女性が描かれているが,ここには刺身らしき料理が盛られ,格子丈の染付猪口がのせられている。ここで描かれているのは魚屋で刺身を買って往来を行く女性であり,猪口は刺身を食べる際の調味料が入れられている。江戸時代に刊行された料理本には刺身皿に猪口をのせて解説されているものがある(注10)。また,天保六年刊行の『料理通』には四季刺身皿之部としてさまざまな刺身料理とそれに相応しい調味料が二種類,猪口とともに提示されている(注11)。このように,刺身料理には猪口と組み合わせて給仕され,猪口は皿の上にのせられているのが当時では一般的であったようである。
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